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□一緒に食べてあげてもいいけど
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「あ、シズ君!よかったらこれからお昼」



「悪いな、トムさんと先食っちまったんだ」



「え」



「じゃあな」




そう言ってシズ君はトムさんと共に去っていってしまった。残された私は朝早起きして作ったお弁当を片手にショックで一歩も動く事ができなかった。




私は平和島静雄ことシズ君が好きだ。彼は自動喧嘩人形なんて呼ばれているけど、彼を怒らせるような事をしなければとてもいい人だ。


ちなみに高校からの片思いだからもう7年間の片思いになる。
自分で自分を褒めてあげたい。

諦めようと思った事もあったけど、シズ君と会うたび、話すたびにそんな気持ちはすぐに打ち砕けた。



しかしそろそろ決着を付けなければならないと思う、さすがに7年間はキツイ。




「やあ、また振られちゃったねー」



「うざい死ね失せろ」



「やだなあ、そんな事言ってたら大好きなシズちゃんに嫌われちゃうよ?」



「折原にしか使わないから大丈夫」



「相変わらずだねえ」




このうざい折原は高校からの知り合いで、私の恋路を応援するわけでも邪魔するわけでもなく、こうやってシズ君から誘いを断られた時まるで待ってたみたいにタイミングよく胡散臭い笑みをひっつらさげてやってくる。

当の本人は友達やら親友だとか言ってるけど全く持って違う、知り合い以下だ。


「かつもつくづく可哀相だよねえ」



「ほっといてよ」



それにしても今回はすごくえぐられた。今までは我慢できたのだけど、折原の嫌味とのダブルパンチは心が痛む。



「かつも馬鹿だなあ、こう何回も断られたら脈ないって普通気づくよねえ?あ、それともまだ臨みはあるかもっていう根拠のない自信でも持ってたのかな?やだなあ、そういうの自信過剰って言うんだよ。シズちゃんもありがた迷惑だと思うけどねえ」




いつもそう、こうやって一番キツイ時にえぐるような事を言って私を一人にして去っていくんだ。

ギリギリまで追い詰めて、攻めて突き落とす。
甘言をはいて相手を期待させて落とす。

高校の時から何一つ変わっていない、だから折原は嫌い。



「……………」



「シズちゃん鈍感だしさあ。あ、案外もしかしてもう本命いるんじゃないの?だったらもう終わりだね、ご愁傷様!」



「……」



ダメだ、いつもなら私からも嫌味を言ってやり過ごすのに言葉が出てこない、代わりに大粒の涙が流れる。


「だからさあ、シズちゃんなんかやめて俺に………って何泣いてんの」



「泣いて、ない」



「泣いてんじゃん」



折原は細く長い私よりも幾分も綺麗な指で涙を拭い取る。



「触んないで、」



「触っていいのはシズ君だけ!ってとこかな」



図星だった。

けど今顔から手を離して頭を撫でられてるのは不思議と嫌じゃない。



「仕方ないなあ、俺も忙しいんだけど」



「は?」



「その弁当だよ、どうせ一人で食べるんでしょ?仕方ないから俺も一緒に食べてあげてもいいけど」



「な、んでアンタと」



「勿体ないからだよ、別にかつが可哀相だからとかじゃないよ?誰かの為に作った弁当が可哀相じゃないか。何勘違いしてんの?本当にかつは自信過剰だね」




シズ君の為に作った弁当を奪い取って私の腕を掴んで無理矢理歩いてゆく。



「はあ、仕方ないなあ。全部食べてよね。残したら罰だから」



「ふーん」



「何か文句あんの?」



「罰よりかつの唇がいいなあ」



「死ね」



「冗談だって!」




折原と食べる昼食なんて最悪だと思ってたけど、あまりに褒めてくるから何だか嬉しかった。
どうせ折原の事だから本心じゃないとは思うけどね。

まあまたシズ君に断られた時には付き合って貰おうかな。





一緒に食べてあげてもいいけど




(シズちゃんなんかに渡すわけがないだろ)




 

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