白と黒

□白と黒 H
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ひらひら、ひらり

目の前には
いっぱいの 黒い羽根




☆白と黒☆
9、優しい悪魔


霞む視界の中、
ルフィともう一人の天使を見つけた時
自分の頭の中に響く、警告音

自分が今出せる
最大のスピードで…

放心状態のウソップを置き去りにして
ゾロは、ルフィのもとへとたどり着き
振り落とされる刃と彼の間にもぐり込んで
その華奢な身体を抱きしめた。


ザンッ



「……、ゾロ………ッ!!!!」


漆黒の羽根が辺りに漂う。
黒翼を1つ、斬られたようだ。もう完全に飛行能力をなくしてしまった。
崩れ落ちた俺を、ルフィは必死に支える。


刀を向けた奴に、背中を向けるのは苦痛だった。
でも、今犠牲に出来るのは…この黒翼だけだと…そう感じていたから。



「ゾロ…、…ゾロッ!!!」

必死に名を呼ぶルフィ。
そんなに呼ばなくたって、聞こえているよ。


「なぁ、ルフィ」
「…ゾロ!!!大丈夫かっ!?しっかりしろ!早く治療して…」
「最後に、もう一度聞かせてくれ」


もしかしたら、
俺がこれからすることは間違いかもしれない。
だから、もう一度…答えが欲しい。


「俺の、側に居てくれないか…?」
「もちろんだ!何で、そんな事…今さらっ…!!」

白と黒
ただ側に居て欲しいだけなのに
この世界には、差がありすぎる

それなら、
灰色に染まってしまえば…


俺は、躊躇いもなくルフィに口付ける。
触れるだけのキスをして、もう一度ルフィを見つめた。

「下界に行こう……俺と、」
「…ゾロも?」


ルフィが、人間になるのは時間の問題。だが、それにはかなりの痛みと苦しみが待っている。
ただ、この実があれば…
ゾロは握っていた悪魔の実を見つめる。

ルフィは、これで苦痛を伴わず…人間となれる。
でも…
ルフィだけでは、行かせない。


「ゾロも、人間界に…行くのか?」

凛とした、天使の声。
それに、こくりと頷いた。


「…ゾロは優しいな。俺、ゾロには悪魔界に残って欲しかったんだ。無理に堕ちることなんか無いって。……でも、来てくれるのか?」

人間に近づく度に、
ゾロにも来て欲しい…独りは嫌だ、と
身勝手な欲はすくすく育った。
でも、そんな事を言ってしまったら
きっとゾロは拒むことなく自分のもとに来てしまうから…
それだけ、互いが好きという事は分かっていたから、
その言葉を飲み込んでいた。

でも、そんな事言わなくても
ゾロは…この場所で、
『下界に行こう……俺と、』
心の中にしまい込んでいた、その願いを
叶えてくれた。



「俺だって、この通り…ボロボロだ。…死ぬより…俺はルフィと一緒に居たい。」



ゾロは、小さな実を半分に分けた。
片方をルフィに、片方を自分に

何も言わず、それを口にした。





「悪魔の実…」
「…っ!!…食っちまったのか…!?」


やっと我に返ったウソップが呟く。


「既に飛行能力を失った天使や悪魔なら、その実を半分食べれば十分人間になる。…よく考えていたものだ、悪魔」



天使と悪魔は、瞳を閉じる。
力を失った身体は、下界の青い海に向かって…堕ちていく。
ただ、互いが離れないように…
悪魔は天使を、その腕に抱いて
天使は悪魔を、その手で掴んで



「……ルフィ!!!」

堕ちていく2人に向かってウソップは叫んだ。

「お前っ…、天使まんじゅう10個…どうすんだよ!!!まだ食ってねぇだろ!!!急に…急に人間になりやがって…嘘つき野郎っ…」

瞳に溜まる涙。決して溢すまいと空を仰ぎ、そしてもう一度ルフィを姿を視界に戻す。



「お前がついた嘘を俺は…許さねぇぞ!!!お前を下界で見つけたら…100個、落としてやる!!たらふく食えるんだ……ッ、…シアワセ、だろっ!!」


ぽろり、
一粒溢れた涙は止むことなく。


「…ッ、…泣かすんじゃねぇよッ…!!俺っ…格好悪ぃじゃねぇか…!」


顔をぐしゃぐしゃにしながら、ウソップは涙を何度も何度も拭った。





シャンクスも、また空を仰ぐ。

「こうなってしまったのも、偶然なのか必然なのか。

……全ては、神の御心のままに」





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