白と黒
□白と黒 I
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それは、終わりだったのか。
それとも、ひとつの始まりだったのか。
☆白と黒☆
10、意地悪な天使
「…う、」
背中がひどく痛む。
瞼を閉じているのに、明るい。
瞳を開ければ、直に太陽の光が突き刺してきた。
「ここ…は、」
身体が重い…。
全身から海の匂いがした、どうやら海水に濡れているようだ。
「あっ、ゾロが起きた!」
「かなり重症だったのに、早いわねぇ」
太陽と空だけだった視界に、影ができる。
逆光で見辛いが、満面の笑みを浮かべたルフィだ。
辺りを見回し、ここは船の上だという事に気がついた。
起き上がると…いたるところから痛みが起き、自然と顔がひきつる。
「わわわっ、まだ寝とけって…」
両肩を掴まれ、また倒され…
先ほどの笑みから心配そうな表情にころりと変わったルフィを見上げる。
「ルフィ、お前は大丈夫か?」
「ん、へーきだ。んにしても、人間になると身体が重いよなぁ。俺、急に太ったのかと思っちまったよ」
にっししし!と笑ったルフィの背後に物音。
そういえばさっきも、女の声がした。
「ちょっと、そろそろ今の状況を話したいから…二人だけの空気を一旦消してくれないかしら?」
オレンジ色の髪の女が、ちらりと見える。
「なんかな、ナミって言うんだって。」
「人間か?」
「当然よ、今はね」
訳有りの返答。
とりあえず、今はこの女の話を聞こう。
「あんた達はこの海に真っ逆さまに落ちてきたのよ。そこを私が引き上げた。あのままなら溺れ死んでたわ。命の恩人よ、分かる?」
「ありがと〜、ナミ!!!」
「分かればよろしい。」
「でも、何で俺達を助けた?俺達がここに落ちてきたのをたまたま引き上げたのか?」
「…私は、あんた達がここに落ちてくる事を知っていたわ」
「ええぇぇぇ!?お前、不思議人間なんだなぁっ」
起き上がり、胡座をかく。
「人間じゃなかったんだな、元は何だった?」
「…いきなり核心つかないでよ…。私の過去…知りたい?」
にやり、と怪しげに笑ったナミに「聞きた〜い!!」と場違いなルフィの声。
「…いいわ。街に着くまでまだ時間がかかるから。」
ふぅ、と息を吐いてナミは唐突に問う。
「昔、天使と悪魔の争いがあったわね」
途端にルフィの表情が曇ったのを読み取り、ゾロはぽんと頭を撫でる。
「…あぁ、あったな」
「あのきっかけは、」
「天使が悪魔を堕とした、だろ?」
ルフィが呟く。ルフィの過去は知らないが、昔の争いに何かしらの思いがあるのだろう。
「そうね。……その天使は私…って言ったら驚く?」
「……まさか、お前なわけ無いだろ」
疑ってかかるのは、いつもの事だが
この女の、この発言はおかしい。
明らかに俺と同じか、少し下程の女が昔の争いのきっかけである堕とされた天使であるには、どうも若すぎる。
「疑うのも解るわ、若すぎるって思ってるんでしょう?でも、堕ちた私が必ずしも実習生であるわけじゃない。」
外で幸や不幸を集めるのは、実習生か既に実習が済んだ者のみ。
悪魔と関わるには、外に出なければありえないというのに。
「私が下界に堕ちたのは、7歳の時よ」
言っている事は、酷く辛い過去のはずなのに
ナミは酷く穏やかな表情でそれを話す。
…何故?
*