人魚姫
外の世界に憧れる人魚姫。
飽きることなく海の世界を出て、人の世界を眺める。
いつかの嵐の日に海へと投げ出された王子様を助けて、悲しい恋に落ちる。
「おや、人魚なんて珍しい」
「えっ!?」
岩場で人の世界を眺めていると、急に背後から人の声がして、慌てて海へと飛び込む。
海の中に逃げ込んでしまえば、人間は追ってなどこれない。
ほう。と岩場から離れ、海面に顔を出したまま、安堵の息を吐く。
「それで逃げたつもりかい?甘いなぁ」
「うえっ!?……な、なんだこれぇぇぇ!」
楽しそうな声がして振り返る。
背後にはにっこりと真っ黒に笑う優男が覗き込んでいた。
男の足元は岩場から伸びてきている氷の道。
その氷の道は人魚の周囲へも伸びてきて自由を奪う。
「さて、少年、名前は?」
「レ、レオナルド・ウォッチす」
「俺はスティーブン・A・スターフェイズだ。よろしく、少年」
「ちょ!まっ!たんま!たんま!ヒィィィィィ!!」
哀れな人魚姫は、いつかの嵐の日に海へと投げ出された王子様を助けて、悲しい恋に落ちる事なく、悪い大人にさらわれた。
この先にあるのは悲しい恋か、幸福な恋か。
end ●●