朝起きた時、変だなぁって思ったんだ。
眠っているルルーシュの顔が、大人びている。
僕はルルーシュの腕の中にすっぽりとおさまっていて、彼の髪は僕が覚えているより長くて。
何より、ここは昨日ルルーシュに抱かれて眠ったクラブハウスにあるルルーシュの自室じゃない。
ベットも広いし、部屋も広い。

「ここ、どこだ……?」

スザクは上半身を起こして部屋の中をきょろきょろと見回す。
そして、ベットサイドテーブルの上に置かれたデジタル時計に気付いた。
年、月、日にち、曜日、そして時間が表示されるタイプのものだ。
それを見た瞬間、スザクは自分の目を疑った。

「に、2028年……?」

10年後じゃないか……!
ということは……

「このルルーシュって…28歳の……?」

僕は未来にタイムスリップしたっていうのか?
10年後、2028年に。
いや、ありえない。
タイムスリップしたというのならどうやって?
寝ている間に一体何が?
しかし、タイムスリップという現象を受け入れてしまえば全てのことに説明がつく。
ルルーシュが大人びているのも、10年たっているのならありえる。
ここが知らない部屋なのも、ルルーシュの新居だとしたら?

「でも、タイムスリップなんて……」

ありえるのだろうか。

「ん…スザク……?」

もぞりと動く気配がして、低く、深みのある声に名前を呼ばれる。
声のトーンといい……やはり落ち着いて大人びているが、それは紛れもないルルーシュの声だった。
僕が名前を呼び返す前に、僕は長い腕に体を絡めとられて、無抵抗のままベットに沈められる。
一気に回転した視界に映りこんだのは、見慣れた赤い鳥。
そう、ルルーシュの目だった。

「おはよう、スザク」
「る、ルルーシュ」

気付いていないのだろうか?
ルルーシュは僕の額やら頬やら、あちこちにキスを落としていく。
嬉しい。
嬉しいけど。

「ルルーシュっ!!」
「ん? スザクお前……縮んでないか?」

縮んでないかって……僕からすれば君がいきなりおっきくなったんだよ!
という抗議の言葉は置いておく。

「っ、よく見てよ!」

ルルーシュの着ている白いシャツをつかんで、ぐい、と体を離させる。
それでやっと気付いたのか、ルルーシュは目を丸くして、僕の頬に手をそえた。
僕はそんなルルーシュの仕草に内心どきっと心を跳ねさせたのだが。
顔に出ていたのだろうか?
ルルーシュが微笑んだ。
だって、手が冷たくて、その体温は確かにルルーシュのものなのに、顔は、体は、28歳の大人だなんて。

「お前、スザクなのか?」
「そうだよ」
「なぜ縮んでいる?」
「縮んだわけじゃない。気付いたら君が大人になってたんだ。そこの時計が間違ってないっていうのなら、僕は10年前から来た枢木スザクだ。」
「10年前?じゃあ今お前は――」
「18歳だ」

ルルーシュは体を起こして、まるで値踏みするように僕を見た。
くちもとに手を添え、ふむ、と一度考えこむ。

「ルルーシュ、僕は……って、うわぁっ!!」

ルルーシュに言葉をかけたその時、するりと僕のシャツの裾から冷たい手が入りこんできた。

「んなっ、何するんだ!」

じたばたするも、ルルーシュの方が体は大きい。
おさえつけられてしまえばそれまで。
左手で僕の両手首を頭上に縫いとめて、空いた右手で乱暴にシャツを捲りあげられる。

「やめろ、このっ!!」
「お前がスザクだというのは本当らしいな」
「え……?」

ルルーシュの意外な発言に間抜けな声が出てしまった。
それを恥じる暇もなく、僕はまた間抜けな声をあげるハメになる。

「うあ!?」

左胸の下を、指でなぞられたのだ。
そこには、古くも傷の深さを印す傷跡があった。
かつて僕がルルーシュと再会をはたした時、撃たれた傷だ。
それを知っているということは、やはり彼はルルーシュなのだろう。

「僕本人だと確認するなら他にも方法はあるだろ!」
「そうだな……これだけでは決定打にはならないか…………」
「よろしければ『ゼロレクイエム』の全貌でもお話しましょうか? 陛下」

目線は睨みつけるように、口調は丁重に。
僕はルルーシュに言った。
するとルルーシュは眉をぴくりと動かして、いつもの余裕を含んだ笑みを見せる。

「『ゼロレクイエム』か。 10年前といえば俺がそれを実行した年だったな」
「で? 信じてくれるのかい?」
「その終焉の名を出されては信じざるをえないだろう」

ルルーシュのため息。
やっと体を自由にされ、僕もふっと安堵の息をついた。

「しかし…どうしてまた10年前のスザクがここにいるんだ? 28歳のスザクはどこにいる?」
「そんなの僕に聞かれても分かるわけないだろ。 どうして10年後にいるのかも、どうやって来たのかも分からないんだ。」



―――――――

続きます。
次はルルーシュのターン。

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