朝起きたら、突然スザクが大きくなっていた。
自称28歳のスザク。
しかし、どう見てもあいつが30近い男には見えない。
確かに今のスザクよりは些か大人びてはいるが、ほにょほにょとした空気は18歳のスザクと何ら変わりないし、何より顔が幼すぎる。
童顔なのはスザクの特徴の1つであるから、それはそれでスザクらしいとも思うのだが。

「それで」
「ん?」

俺が煎れた紅茶を片手ににこにこ笑っているスザクは、自分が10年前に来ていることに何の不安もないようだ。

「どうやって10年後から来たんだ、お前は。 何が目的なんだ」
「ここへ来た方法と理由、ね。 方法は話せば長くなる。 理由は……そのうち分かるよ。」

そしてふにゃりと笑った。
こいつ……10年後の方が天然度増してやしないだろうか。

「はは、君のおかげで未来はとても平和でね。 僕がピリピリする必要はないんだ。 おっと、未来のことはあまり話しちゃいけないんだったな。」

失言、とばかりにスザクは口を手で覆い、苦笑して見せた。

「ってお前、俺の考えてること――」
「そりゃ8年も一緒に住んでればね。 君の思考パターンくらいは読めるさ。 って、あぁ、また先のことを」

どうやら……。
この28歳のスザクが言うことから推測すると、俺とスザクは高校卒業後、同居生活を始めたらしい。
ついでに未来は戦いのない平和な世界で、スザクは平和ボケしている……と。

「それで? スザクはどうやって2018年に?」
「長くなる」
「構わない」

短く答えると、スザクは少し困ったように顔を歪ませて、目を閉じた。
それからため息をついて、開く。
18歳のスザクと28歳のスザクの違い。
目の色に深みが増しているのに俺は気付いた。

「世界樹を、知っているか」

スザクの説明は、そんな聞き慣れない言葉から始まった。
唐突だ。

「せかいじゅ……だと?」
「そうだ。 世界を支える、Cの世界に育つ神の樹」
「それがお前のタイムスリップとどう関係がある」

自分でも驚くくらい苛立った声が溢れた。
何に苛立っているんだ、俺は。

「世界樹は、人が何かを『選択』するたびに枝分かれする。 僕はその分岐を遡ってここまで来たんだ。 だから、ここにいる『枢木スザク』はそのあまたある分岐のうちの1つにすぎない」
「ちょっとまてスザク、もしその世界樹とやらがCの世界にあるのだとしたら、お前はどうやってそこまで行ったんだ?」

スザクは声にして答えることはせず、無言のままシャツのボタンを3つ外して、胸部を晒した。
そこには、赤の鳥が羽を拡げている。
ギアスの、コード。
俺はそれを知っている。
自然と手が自身の胸部をおさえていた。
俺も、ここに1羽の鳥を宿している。
忌々しい、親父の形見だ。
俺が致命傷を負った時に発現したこのコードは、俺が持っていたギアスの力を打ち消し、代わりに不老不死という厄介なものをおしつけた。
だが、目の前のスザクはコードを持っているにも関わらず、成長している。
コードの力はどこへ消えたんだ。

「ルルーシュ、僕のコードは半分なんだ」

不思議そうにしている俺を見てか、スザクは大きくシャツをはだけさせた。
スザクの言う通りだ。
彼の胸部にあるコードは右半分が消失している。

「半分は、28歳の君が持ってるんだ」
「俺が?」
「うん。 正確にはね、君のコードを僕が半分譲りうけたんだ」

ボタンを閉めて、スザクは自分の服装を整える。

「半分になったコードは、不老不死の能力を失った。 君は片目だけギアスが蘇り、人並外れた回復能力を手にいれた。 そして、僕は回復能力とCの世界にアクセスする能力を。」
「なるほど、な」

だからCの世界に入れたのか。
俺は紅茶の入ったカップをとり、そこで、ん?と首をかしげた。

「スザク、どうやってコードを『半分』にした?」
「ごめん、それはちょっと言えないんだ。」

肩をすくめて、スザクは微苦笑する。

「そうか」

後で聞いたのだが、世界樹の大きな分岐に関わる事項には答えられないそうだ。
「それより、さ、ルルーシュ」
「ん、何だ?」
「学校、いいのかい?」

スザクのその言葉に、俺は凍りついた。
勢いよく立ち上がり、倒れる椅子を倒したままに時計に目をやる。
時刻は……8時21分。
予鈴は8時30分。
あと、4分だと……!?

「っ、俺としたことがッ」
「ほら、ルルーシュ、早くしないと鐘なるよ」

貴様っ、人事だと思ってっ!!
俺はスザクを怒鳴りつけたい衝動をなんとか抑えて、代わりに乱暴に鞄をつかんだ。
いってらっしゃーい、なんて、やたら呑気な声が背後から聞こえた。

――――――――――

何気に+10と交互に読んでもらうとつながります。
つづきますよー。

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