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□掌にキス
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キス







それはいつもと変わらない、朝。



「…こーら?さっきから何してんのお前?くすぐったいでしょ」

――…目を覚ますと、

俺の右手は小っちゃい両の手にガッチリと捕らえられていて。

細っこい指先が皮膚の薄いところをさわさわと這い回るもんだから、

正直くすぐったくて堪らないわけで。



「…なんの拷問?」
「ん?別に拷問じゃないってばよ」
「…くすぐりの刑じゃなかったのね」
「うん。ていうかカカシせんせーくすぐったいってば?」
「うん。ま、地味に…」

――…昨日泊まった、

この子供の小さなベッドの中で。

素肌のままの体を寄せ合いながら、

朝っぱらから大人の掌と睨めっこをしている子供なんて。

きっとこの子くらいだろうと思うと、

何だかちょっと可笑しいやら悲しいやらで。

苦い笑いとともに、

そっと溜め息が漏れてしまったのは。

まあ確かに、

この子の先生としても恋人としても悪かったと思うけど。



「で?さっきから何をそんなにマジマジと見てるわけ、お前は?」
「うん?」
「皺でも数えてんの?」
「ううん。俺ってばカカシせんせーの手、おっきくてあったかいから好きなんだってばよ」
「…へえ、そうなの?」

――…でもだからって、

そういう告白を突然サラッと口にするのはやめてもらいたい。

こんな、

いつもと変わらない朝っぱらから。



「だってさだってさ!三代目のじいちゃんとかイルカせんせーの手とは全然違うっつうか」
「……」
「カカシせんせーの手って普通なのに普通じゃないっつうか」
「……」
「ちょっと触っただけなのに俺ってばすっげードキドキしてさ!」
「……」
「やっぱカカシせんせーの手って特別なんだな〜っていっつも思うんだってばよっ!」
「……」

――…そういう、

可愛いことを言うのは反則だと思う。

掌を見るのに夢中な子供は気づいていないだろうけれど、

きっと恐ろしく真っ赤っかになっているであろう顔を晒して。

俺はそれ以上に、

何を返してやればいいと言うのか。



「えへへ」
「……」
「内緒だったのに言っちゃったってば」
「……」

――…そうやって、

貝殻のような小っちゃい両の耳を薄っすらと染めながら。

テレテレと掌の陰に顔を隠す仕草も、

堪らなく可愛くて。

さらに熱くなってしまった己の顔を、

そっと枕に埋めた俺は決して情けなくなんかないと思う。

なのにこの子ときたら。

そんないっぱいいっぱいの俺を煽るように、



「ちゅ」
「っ…」

――…有ろう事か、

掌の皮膚の薄いところに柔い唇まで押しつけてくれちゃって。

くすぐったいのがまた、

くすぐったくて。



「へへ。チューしちゃったってば」
「……」

――…なんて。

自分で仕出かしておきながら生っ白い首筋まで真っ赤っかにしちゃうもんだから。

堪らない。
堪らない。
堪らない。



「…お前ね、それは煽りすぎでしょ」
「へ?」
「…せっかく今日は大人しくしてやろうと思ってたけど、やめた」
「カ、カカシせんせ?」
「煽ったお前が悪いんだから最後まで責任とりなさいよ」
「え。ちょっ」
「ね。ナ〜ルト♪」
「ぎゃー!どどどっどこに指入れようとしてんだってばあっ…」
「ハイ暴れない〜♪」

――…言いながら、

子供の短い両の腕を上忍のスピードと腕力で持って絡めとり。

体格差をいいことに、

ちんまりと丸まった小柄な体を後ろから全部包み込むようにして覆い被さった俺は、

何て卑怯なんでしょう。



「やっ、だ、だめだってばカカシせんせっ…」
「ん。1回で終わらせるから、ね?」
「いっ1回って…いっつもそんなんじゃ終わんねぇくせにっ…」
「…ま、大丈夫大丈夫」
「なっ何だってばよ今の間はー!」
「好きだよナ〜ルト♪」
「ず、ずるぃ!、ぅあ!あっああんっ!」
「ん〜いい声♪その可愛い声もっといっぱい聞かせて?」

――…でもねナルト?

いつもと変わらないと思っていた朝に、

お前があんな可愛い告白をしなければ俺だってこんな無体な事までしなかったはずなのだ。

…なんて。

今さらそんな身勝手な言い訳を口にしてご覧なさいよ?

それこそこの子の得意技でぶっ飛ばされかねないから、

ま、言わないけれど。

俺を想ってくれている大事なこの子にもっともっと自分の想いも返したいから。

愛を確かめ合うにはコレが一番なのだと、

愛に溺れた馬鹿な男ほど思ってしまうのだから許してほしい。



「んあっ!あっあっ」
「っナルト、ナルト…」
「カっカカシせんせっ、あっ!んんっ!っあっあ、ちょ、はっはげしすぎだってばぁあんっ!」
「っく、お、お前っしめつけすぎっ…」

――…でも、ま、

結局のところ?

まだまだ熱の引きそうにない赤い顔に気づかれたくなくて。

こんな朝っぱらから、

無駄に頑張っちゃう俺ってやっぱりちょっと情けないのかも…?

















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