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□Danny, Danny, Danny
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Danny, Danny, Danny





「は?」

気の抜けたような息を吐き訝しげにこちらを見上げてくるダニー・ウィリアムズに、スティーヴ・マクギャレットは内心びくびくしていた。

言うか言うまいか口を開きかけてはすぼめるというのを繰り返すダニーは今日もセクシーだが、今はそんな不埒なことを考えている場合ではない。

ダニーのオフィスに勝手に入りデスクの上にある物を今まさに置こうとしていたスティーヴは、悪戯が見つかった気分で非常に居心地が悪かった。

「何してんのあんた、人のオフィスで」

当然聞かれるとは思っていたが、何もスティーヴは悪いことをしに来たわけではない。

だから別に焦って言い訳をする必要もないのだが、じっと見つめてくるダニーの視線が何となく痛くて、スティーヴは咳払いをして答えを遅らせた。

次いで、右手に持っていた白い箱をダニーのデスクの上に置く。

手つきが慎重になったのは、ダニーのオフィスに勝手に入ったスティーヴの目的がこれにあるからだ。

本当はもっと格好よく決めるつもりだったのだ。

リボンもメッセージもない白い箱をダニーのデスクの上に置いて、オフィスに戻って来たダニーを驚かせてやるつもりでいたのに…。

ランチに出掛けたはずのダニーがまさかこんなに早く戻って来ようとは誰も思わないだろう。

「ランチに行ったんじゃないのか?」

言いながら、腕を組んで振り向いたスティーヴの表情がむすっとしたものになっていたのは、せっかく立てた計画が失敗に終わったからだ。

「行ったけど財布忘れて…。って、何であんたが怒ってんの?」

「てか、拗ねてる?」とダニーに苦笑されて、スティーヴはますます居心地が悪くなった。

勝手にオフィスに入ったことをもっと咎められるかと思っていたのに、ダニーの声は意外と柔らかいもので、何だか逆に照れてしまう。

「で、何それ。甘い匂いがする」

そう言ってスティーヴが置いた白い箱を指差しながら、当たり前のようにスティーヴの隣に立ったダニーはひどく上機嫌で。

バレていると思った。

甘い物が好きな相棒にそれを差し入れ、連日連夜の激務をひっそりと労おうとしていたスティーヴの魂胆を、ダニーはきちんと把握した上で聞いているに違いない。

「もしかしてココパフ?」
「好きだって言ってたろ…」
「うん、好き。大好き」

「ついでにあんたもね」と笑ったダニーに遂に我慢ができなくなってその細腰を引き寄せたスティーヴは、ダニーの唇に噛みつくようにキスをした。

ついでは余計だという文句は黙って飲み込んでやったのだから、これくらい許して欲しいと思う。

「夜まで待てないって?あんた意外と可愛いね」
「うるさい」

唇をちゅっとくっつけては離れて行くダニーを追いながら、スティーヴはこれでも精一杯の文句を返している。

ココパフの礼が高くつきそうだと知りながら、それでもスティーヴのキスに応えてくれるダニーは本当にできた相棒兼恋人だとスティーヴは思う。

甘い物が好きな相棒にそれを差し入れ連日連夜の激務をひっそりと労おうとしていたのに嘘はないが、それと同時に、スティーヴ自身を癒やして欲しかったのもまた事実だった。

スティーヴのそういう姑息な魂胆を、だからダニーはきちんと汲み取り把握した上でスティーヴの背中を撫でてくれているに違いない。

連日連夜の激務はダニーもスティーヴも一緒だ。

ただ違うのは、特別捜査班ファイブ・オーのリーダーとして働くスティーヴの方が、皆よりちょっと、心をすり減らすのが早いというだけで…。

何があったというわけではないけれど、ただ何となく、スティーヴはダニーに癒やしてもらいたかったのだ。

「なあ、でもこのココパフさ」
「何だ?」
「ひとりで食べるには多そうだからチンとコノにもあげていい?」
「お前がいいなら…」

スティーヴのそういう姑息な魂胆を、こうしてダニーはきちんと汲み取り把握した上で、スティーヴの逞しい背中を優しい手つきで撫で、くすくすと笑いながらも唇を寄せてくれているのだと思うと、たまらなくなる。

しかしここはまだオフィス内だ。

ダニーより先にランチに出掛けたチン・ホー・ケリーとコノ・カラカウアがいつ戻って来るかはわからない。

だからいつまでもダニーを腕に抱き込んでいるわけにはいかないのだが、スティーヴに寄り添うその体温をすぐに手放すのも惜しくて…。

「で、スティーヴン。俺まだランチに行けてないんだけど?」
「中華のデリバリー、好きだろ?」

ダニーを片腕で抱きながら、ダニーのデスクの上にある電話に手を伸ばしたスティーヴは、時間の許す限りダニーを堪能しようと決めた――。



END.



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