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□ボクの味方はキミだけでいい
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ボクの味方はキミだけでいい
「はあ〜今日も疲れたねえ〜」
「……」
今回の事件も無事解決を迎え仲間内で飲みに出た帰り、スティーヴ・マクギャレットは当然のように相棒のダニー・ウィリアムズを自宅へと連れ込んだ。
いつもならばダニーは半ば無理やり車に押し込まれマクギャレット家に招かれるため、狭い車中から家の中までずっと小言が続くのだが…。
どうやら今夜は軽くアルコールが入っているおかげで、ダニーの機嫌はすこぶるいいらしい。
いや、らしいという曖昧な表現は相応しくなかった。
「なあ、ビールある?せっかくだし飲み直さないか?」
今夜のダニーはやたらと機嫌がいい。
カウチソファにどっかりと腰を下ろしたダニーが満面の笑みでスティーヴを見上げビールを強請ってきたのに対し、スティーヴは今だ玄関先に立ったまま「何がせっかくだ…」と苦虫を噛み潰すような思いで顔をしかめた。
だがしかし、ここで口論を始めてしまってはせっかく連れ込んだダニーの機嫌を損ねかねない。最悪、帰ると言い出すかも知れない。
それだけは何としてでも絶対に避けたいスティーヴは、「ああ、待ってろ…」とひと言だけ言い置いてキッチンへと足を向けた。
冷蔵庫から買い置きのロングボードを2本取り出し、ついでに食料棚からナッツ入りの缶を取り上げた。
ナッツは小うるさいダニーのためだ。
本当ならばこんな時間に高カロリーなナッツなど食べさせたくはないのだが、前にツマミが欲しいと突然言われエナジーバーならあると答えたら、
『あんたバカじゃないのか?どこの世界にエナジーバー片手にビール飲むヤツがいるって言うんだ?酒飲んでエネルギー補給して元気になっちゃったいい年したおっさんに、あんたいったい何しようとしてるわけ?あーやだやだ、これだからアニマルってのは…』
という文句が何倍にもなって返ってきたので、スティーヴは仕方なく――いや、大いに不本意ではあったが、近所のスーパーマーケットまでわざわざ車を飛ばしたことがあるのだ。
そういう苦い経験から学んだ結果、いつダニーを連れ込んでもいいように、日持ちするナッツだけは家に置くようにしてあった。
「ほら」
「ん、ありがと」
片手に持った2本の内の1本をダニーの前に差し出しながら、スティーヴはもう片方の手にあったナッツ入りの缶をテーブルの上に置いた。
わざわざ缶の蓋を開けてやらないのは、ダニーに食べて欲しくないというスティーヴなりの意思表示だ。
普段から健康面にうるさいスティーヴのことだ。ダニーもそれに気づいているからこそ、あえて缶に手を伸ばそうとはしなかった。
代わりにダニーは、先にビール瓶の蓋を開けて、
「ほら、乾杯は?」
小さな子どものようにじっとダニーの様子をうかがっていたスティーヴに座るよう命じ、ダニーの隣にようやく身体を落ち着けたスティーヴの顔を間近で覗き込んで、にっこりと笑って乾杯まで促してやった。
スティーヴが少し前に屈めばキスができそうな距離だが、ここで流されてはいけない。
キュートな笑顔と綺麗なブルーアイズに思わず吸い込まれそうになったスティーヴだったが、咳払いで何とかそれを誤魔化し、慌てて開けたビール瓶をダニーが持つそれと合わせた。
「乾杯」
チリッという小気味好い音を立てた瓶を傾け、ビールを口に含む。
思いのほか喉が渇いていたようで、スティーヴは一気に半分ほどまで飲み干してしまっていた。
あまりのハイペースさにダニーが呆れて苦笑しているのがわかり、スティーヴは途端に気恥ずかしくなってダニーから少しだけ顔を反らした。
せっかく潤したというのに緊張がまだ喉に貼りついているような気がして、スティーヴはダニーに聞きたかったことがなかなか聞けないでいた。
何でルー・グローヴァーに賭けた?
ファイブ・オーのひとりでもあるチン・ホー・ケリーと出掛けた素潜りで大きな獲物を捕らえたらしいSWATの隊長グローヴァーが、今夜それを皆に振る舞ったのだ。
魚へのはなむけの言葉だか何だか知らないが、スティーヴへの当てつけに長々と聞かされたあの演説は余計だったと今でも思う。ダニーは面白がってもっと聞きたいと言っていたけれど…。
大物と言っても、たった1匹だ。
数で言うなら初めての素潜りで6匹は仕留めたスティーヴの方が勝っているというのに、グローヴァーは大きさにこだわった。
まぐれ当たりでたまたま大物を捕まえただけだろうに、それでどうしてスティーヴに挑もうと思えるのか。
何故ならスティーヴは海軍特殊部隊シールズの出身でもあり、素潜りならすでに何度か経験していて腕だって上げているし、地の利だってある。
どう考えてもスティーヴの方が有利なのに、それでもグローヴァーは勝てると踏んだのだ。悔しかった。
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