TEXT(SS)

□奇跡の産物
1ページ/3ページ



料理ってのがどんなに奥の深いものだとか、手間のかかるものだとか、そんなことはコックの俺が一番良く知ってるさ。
キッチンにほとんど立った事がないヤツにとってどれだけ難しいことか…。

だけど、たまには…。
こんな時ぐらい…。


「何か欲しいもん、あるか?」
「欲しいもん、ってゆーか…」

熱に魘されながらもゾロがポツリと言った言葉に舞い上がり、無謀だと思いつつ即答した。

「お前の手料理食いたい!」


ゾロが承諾してくれるとは正直思っていなかった。

風邪を引いた俺は熱でグラグラする頭で同情を引き、その場にいたウソップも一緒になって自分には不可能だとか何とか断るゾロをどうにか説得することに成功した。
実際どんな言葉で説得したのかさえもあまり記憶に残っていないが
「好きなヤツが作ってくれた料理はどんなものでも美味いんだ」
「ゾロの手料理を口にして死にたい」
「小さい頃からの夢だった」
などと(嘘八百)並べ立てた様な気がする。

こっちだって必死だったからな。

「どうなっても知らねーからな…。」
とゾロがしぶしぶながらもキッチンへと姿を消した後、俺は直ぐにその場にいたウソップを呼んだ。

「ウソップ、頼む…。」
「却下だ!」
「まだ何にも言ってねーだろが!!」
「お前の頼みにはろくなことがねー…。」

布団の中で小刻みに震える拳を握り締めながらも、どうにか冷静さを保った。
ここでキレたら、ダメだ。

熱があるといっても実際はキッチンに立とうと思えば可能な程には回復している。(多分)
ただゾロの手料理に興味があった。

俺のために。
頭をフル回転させながらゾロが苦手な料理を作る。
これほど幸せなことはない。

どんなに不味かろうとも。
どんなゲテモノが来ようとも。
食べきる自信はあった。(多分)

しかし、その工程には一抹の不安がある。
包丁で怪我をしようが、コンロで火傷をしようが、そんなことはまあ、どーでもいい。
多少のことは目を瞑ろう。
だが、備品を壊さないだろーか、鍋やフライパンを焦がさないだろーか、それが不安で仕方がない。

俺が監視したいのは山々だが、万が一にもバレた場合、ゾロが調理を放棄する可能性が高い。
ここは監視を頼み、随時報告をしてもらう必要があった。
その任務にはどう考えてもこのクルーの中、ウソップが最も相応しいと思えた。

「なあ、ゾロがどんなものを作るか興味ないか?」
「……ない、な。どーせ、食べるのはお前だからな。」
「ゾロの様子を逐一報告して……。」
「却下!」
「………。」

こみ上げてくる怒りを押さえつけ、ここで怒鳴ってはいけないと、歯を食いしばりながら更に説得を続ける。

「ウソップ君よ、キノコ料理は嫌いだったはずだね。」
「それは交換条件か?脅迫か?」
「…いや、頼みだ。」
「………。」

暫く思案するウソップに、いらついた。
考えるまでもなく俺の頼みを聞きゃーいんだよ!

「今後俺の料理にはキノコは入れないこと。肉と魚は2割り増し。」
「………。」
「デザートは…。」
「却下!もう頼まねー!命令だ!!さっさと行かんかい、ゴルァ!!」

ウソップは泣きながら監視へ向かった。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ