The Shine of Fenril

□夜空の下で動くもの
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 手掛かりもなにもないし今は何よりも胸の中がものすごくもやもやして締め付けられてるみたいで苦しい。たくさんの思いが溢れてくる。

 シエラとレイドが一体どういう関係かはしらないけれど、シエラはレイドのことを大切に思っている。それはあの態度から見てとれる。
だからレイドを更に傷つけるだけの存在であるイレーヌにはレイドのことを思って目の前に現れるなとシエラは言った。

 なんでだろう、シエラにそう言われて物凄く痛かった。レイドに斬られたときよりもずっと、ずっと。

「…みんなに…レイドに…会いたい…」

涙声でイレーヌはそう独り言のように心の中の思いを言葉に出していた。出た声がぐずついた子どもみたいで本当に情けない。誰にも聞かれたくない声だった。

「今は無理だけど、大丈夫ほら、もうすぐ会えるからそんな顔しなさんな。せっかくのべっぴんさんが台無しだよ?」


 老婆は優しくイレーヌにそう言うと、気を使ってくれたのだろうか肩をポンと叩いた。きっとよかれと思ってやってくれた気遣いも今は逆効果になってしまう。


「もうすぐっていつ?」


「少なくとも今は無理だよシエラの言う通り今のあの子は危険すぎる。
お嬢ちゃんにとってもレイドにとってもね」


今のレイドにとってイレーヌは危険な人物。そう言われるのがとてもショックだった。イレーヌだってシエラと同じぐらいレイドのことを大切に思っている。その気持ちは絶対に負けない。
 なのにどうしてこんなに差があるのだろうか。シエラはレイドの過去を知っているそれだけだ。
過去のレイドはもういない、いるのは今のレイドだけ。
今のレイドのことはシエラよりもイレーヌの方がずっとよく知っているのに。
 だいたいそんなに過去が大事なのだろうか。確かに過去も大切かもしれないけれど今の方がずっと大切だ。大切に決まってる。
なのになんでこう自分はなにもできないのだろう。彼を傷付けてしまう存在なのだろう。


…って一体自分は何を考えているのだろうか。今はそんなこと考えている場合じゃないのに。なんだが頭の中がレイドのことでいっぱいでおかしくなってしまいそうだ。


「もしかしてお嬢ちゃん、シエラに嫉妬してるのかい?」


 隣で老婆が冗談まじりにそう言ってきた瞬間一気に頬が一気に熱を帯びて赤くなっていった。

 熱く赤くなった頬を隠すようにイレーヌは慌てて冷たい手を頬に当てた。別に図星をつかれたからこんな反応をしたわけではない。
 だいたい初対面のシエラに相手にいきなり嫉妬だなんてそんな感情持つはずがない。いやもしかしたらこの胸のもやもやが嫉妬なのかもしれない。

「そんなにわかりやすい反応をしなくてもねぇ…」

「別にそんなんじゃないです!!」

 イレーヌは大きく首を横にふって完全にイレーヌをからかって楽しんでいる老婆を見た。第一老婆が言うようにわかりやすい反応をしている気は全くないのに。

「そんなに気になるなら教えてあげようか、あの子のこと?」

「えっ?」

「知りたいんだろうあの子のことを?」

 老婆は何故か意味ありげに微笑むと、さっきまでイレーヌが寝ていた部屋に入って行った。


レイドのことを知りたい。今のことも、昔のことも、全部。

 昔の自分ならこんな風に誰かを思うようになるなんて絶対にあり得なかったのになんだか不思議だ。きっとレイドがいてくれたから昔に比べて自由に心が動くようになったのだろう。

 イレーヌは顔を上げて、老婆が入った部屋に入っていった。



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