The Shine of Fenril

□止まらない連鎖
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今自分は一体どんな顔をしているのだろうか。

きっと笑えるほど情けない面をしているに違いない。
リックは手をどかして目を軽くこすり、また曲がり角の先を頭の中が真っ白になりながら中ボーッと真っ直ぐ見続けた。



その時だ。

「あっ副長あの青いのって確か真っ黒野郎の…」


どこかで聞いたことのある声がふと耳に入って来た。
視線を声が聞こえてきた目の前にやるとそこには派手な赤髪のチャラチャラした印象を受ける男と、艶やかな黒の髪を頭で一番高い所で一つに結っている東国系の綺麗な女がその場に立ち止まり、リックを見ていた。
2人共帝国のシンボルが描かれた団服を着用している。


「…飛鳥とストーカーか」


「何で俺はストーカーなんだよ!!
マジでお前ら一回焼くぞ!?」


横でストーカーことフィンがギャアギャア騒いでいるのを無視して帝国騎士団の副団長を勤めている飛鳥は険しい顔で、リックに近寄って来た。


「…そう言えばお前あのレイドと知り合いだったな。
お前奴の居場所を知ってるんじゃないのか?」


疑いの眼差しと共に飛鳥はリックにそう声をかけてきた。
隣のフィンも飛鳥同様の目をしている。

皇女に重症を負わせた連れ去ったレイドは2人にとって捕らえなければならない対象だからだろう。

「おいおい勘弁してくれよ。
知ってたらこんな所でぼーっとしてないで、さっさとレイドのとこに行ってるに決まってるだろう?」


リックはそう言うと大きなため息をついて飛鳥を見た。

 血は繋がっていないものの飛鳥と飛鳥の義理妹であるリラとの姿が重なって少し辛い。
リラの泣きそうな顔を見たときの胸の鈍い痛みが甦る。
リックは思わず胸を抑えた。


「確かにお前ならそうしてるだろうな。
それに奴の正体を知らないのなら尚更か」

「奴の正体って…もしかしてフェンリルのことか?」


この国に飛ばされるまでは見たことも聞いたこともない、レイドと同じくらいこの街でよく耳にする単語を口にすると飛鳥は静かに頷いた。


「なぁフェンリルって何なんだ?
それとレイドが一体どういう関係なんだ?」


「おいおい、さっきから質問ばっかだぞ〜」


「ストーカーは黙ってろ!!」


茶化すフィンをリックはもの形相で睨み付けて黙らせると明らかに何か知っている飛鳥を見た。


過ぎた好奇心はいつか身を滅ぼすとわかっている。

けれど知りたいレイドが隠している本当のことが。
 例え知ったことがどんなに酷い現実だとしてもリックのレイドに対する態度が変わることはまずない。

だって知った後も前も同じ孤児院で育った兄弟に変わりはない。
だからレイドがどんな酷い奴でも化け物でも孤児院に来てリックと兄弟となった日からレイドの全てを受け入れられる気持ちの準備なんてもうとっくの昔にできている。
 それは自分のことについて悩んでいたイレーヌに対しても同じことだ。


「頼む教えてくれ飛鳥」


リックがそう頼むと飛鳥は溜め息をつきしばらくするとその重い口を開いた。



「13年前この街で起こった住人虐殺事件の犯人にして暁戦争が産み出した最大の歪み。
それがフェンリル」

飛鳥はそう言うとどこからか天使と女の子の可愛らしい絵が描かれている分厚い絵本をリックに渡した。
一見特になんの変わりもないどこにでもある普通の絵本。


「これとフェンリルに一体どんな関係が?」


「まぁそう言わずにとりあえず読めって」


リックはフィンに言われるがままに絵本の表紙を捲った。

目次と見出しの色鮮やかなイラストと真っ黒な文字で物語の冒頭部分が綴られていた。


【これは天使と女の子のお話】


「天使と女の子…」

見出しの部分だけ見てみるとフェンリルや暁戦争との関連性は一切感じさせられない。
リックは黙ってページを捲った。


【昔々あるところにお人形のような可愛らしい女の子がいました。
女の子は病気だった為毎日毎日ベッドの上で1日を過ごしていました。

だからお日さまが一番高く昇るころから山の向こう側に沈むころまでずっと窓の外から聞こえてくる楽しそうに遊ぶ同じ年ぐらいの子どもたちの声が羨ましくて仕方ありませんでした。


 女の子はいつも世話をしに来たお母さんや様子を見に来るお父さん診察にくるお医者さんに聞きます。

「私の病気はいつになったら治るの?
 いつになったらあの子たちみたいに外で遊べるようになるの?」
と。

そう訊くといつもかえってくる答えは同じで、

「いい子にしてたらきっと神さまが治してくれる」

と大人たちは言い悲しそうな顔をして女の子の前から消えてしまいます。




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