The Shine of Fenril

□輝ける者の目覚め
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何でこの街に他国の軍がうろちょろしているのだろうか。
ブラングル王国は再建したばかりで治安が悪い地区には治安維持の為多国籍がいたりする。
しかしこの街は王国内でも一番治安がいい街だ、なのに何故。

「カトレウス様が誰かに誘拐されたらしいよ。
で、軍が国内に駐留する他国の軍に捜索を要請したわけ」


さっきも言ったように国が建て直って間もないブラングル王国は政情が不安定で軍も大忙しだ。

なので大方王子の捜索に割り当てれる兵の数はないに等しいのだろう。
だから暇そうにしている他国の軍隊に、王子の捜索をお願いしたというわけか。

確かに今の国の政治を担当している腹黒大臣サマの考えそうなことだ。


「相手が喧嘩を売って来なかったら大丈夫さ…」

男はそう言い嗤った。


「やっぱり帝国とカトリアがこの国に関わるとろくなことがないのかねぇ。
これは噂で聞いた話だけどカトレウス様を誘拐した犯人は、帝国のお姫様を誘拐した犯人と同一人物だとか、カトリアの背後にあの死んだはずのウェン率いるロードがいるだとか…いろいろあって…「ロード!?」


男は立ち上がり、思わず声を張り上げて叫んだ。

「…あのウェンが生きてるのか!?」


ロードと聞いた瞬間酔いが一気に覚めて、黒い感情が血液といっしょに全身を駆け巡った。

トウル婆さんは男の前でロードが禁句だったことをすっかり忘れていた。


「……あくまで噂だよ。本当にいるかどうかは……」


そう付け足したが、男にトウル婆さんの言葉は耳に入っていなかった。

いま男を支配しているのは消えることのないロードへの憎しみのみ。



「奴がこの街に……」


今まで酒に酔い潰れていたとは思えないほどの鋭い眼差しで男は自分の震える両手を見つめた。


「…奴がまだ生きているのなら、今度こそこの俺が完全にトドメを刺すまでだ…」


意味もなく殺された仲間のために、裏切られた彼女のためになによりも守るべきこの世界のために……。


男は壁に立てかけていた、男の髪色と同じ艶やかな闇色をした長剣を手に取った。
男が手にしたその長剣はまるで、今の彼の心の闇を映し出しているように真っ暗だった。


あの剣は3年前に世界を救った英雄たちへの復讐のために、男が地獄の女王と契約をして手に入れた強大な威力を得る代わりにそれ相応の代償を支払わなければならない魔剣。
血を求め、一度この剣に斬り裂かれた者は二度と立ち上がることはできなくなり敵に絶対的な死を与えるといわれている。


「くだらない復讐のために、命を粗末にするんじゃないよ」

「…婆さんから見たらくだらないかも知れない。



けれど、俺にとったら全然くだらなくない、真剣な問題なんだ」


男はトウル婆さんを見て何故か悲しそうにそう呟いた。
今の彼にとってウェンへの絶えることのない憎しみが生きる意味になっているのだろうか?
しかし彼もわかっている筈。
たとえ復讐を成し遂げたとしても心に空いた穴は埋められないことを痛いぐらいに…。


「お代はこれで足りるよな?」


男は長いコートからくしゃくしゃの紙幣と小銭を数枚カウンターの上に置いた。
正直なところほんの少し足りないような気もしたが、それはサービスで黙っておくことにした。


「あぁ、行くのなら気をつけて行っておいで。
また明日待ってるからね」


「……あぁ。また明日」
男はできるだけ笑顔でそう言い、トウル婆さんに背を向けて手を振り、店のドアにつけられた小さな鐘を鳴らして寒々とした白銀の夜の街へと出て行った。



「全く、アンタたちが生きてたら、あの馬鹿止められたかも知れないのにねぇ?……レイド、レン」

トウル婆さんは店の壁に飾られた、満面の笑みを浮かべる幼い兄弟の写真を眺めて1人呟いた。


カウンターに残された古びた日記にトウル婆さんが気がついたのはその少しあとだった。







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