The Shine of Fenril

□砂塵の中の記憶
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 王都フォール・クバンから数10キロくらい離れていてもそびえ立つ威厳あふれる王城が見える。


「もうちょっとでつきそうだな。」


「……ん……っつ……」


 イレーヌが小さなうめき声とともに蒼い瞳を開けた。
 うっすらと瞳をあけた彼女の顔色は悪く真っ青だ。


「イレーヌ、大丈夫か?」


「……うん」


 イレーヌは弱々しくうなずいた。
 レイドはイレーヌに《神術》のことを話そうとしたが、イレーヌが先に口を開いた。


「レイド私、記憶なくしたんじゃないんだ」

「えっ?」

「私の記憶全部、お姉ちゃんがとったんだ」


 イレーヌは頭を押さえながら本当に辛そうに小さな言った。
 お姉ちゃんが記憶をとったってことは、イレーヌは記憶を失った時のこと思いだしたのだろうか。
 レイドは少し複雑な表情でイレーヌを見つめた。


「ねぇ、お姉ちゃんってあのイレーヌに憑依した人?」


「よくわからないけど、私のお姉ちゃんらしい。
思い出しちゃだめって、叫んでた。なんかエカラがどうとか言ってて」


「エカラ!? エカラってまさか女神エカラのことか?」

 リックが言ったエカラとはユピテルで一番信仰されている、エカラ教の女神サマの名前だ。
 また一部の異界調査学者がいうには、各世界のバランスを保つ監視者たちが集う園《蒼穹》の奥にある幻の楽園の君臨者の名でもある。しかし、存在が確認されていない以上今の時点では人間が創り出した想像上の存在にすぎない。
 リックが言った神サマのエカラではないだろう。


「ごめん、よくわからないの。でも、お姉ちゃんじゃない、また別の人の声が全ては生命の神殿にあるって……」


 イレーヌは微かな記憶の糸をたどりながら必死にレイドたちにおこったことを伝えてくれる。


「そこに行けば私がなくした記憶全部思い出して、ウォルウールが元に戻る鍵がわかるかもしれない」


 ウォルウールをどうにかするにはイレーヌの記憶が鍵。
 ミラージュが言った言葉が真実ならばイレーヌのいうとおりやはり《生命の神殿》に行けば解決法が見つかるかもしれない。
 けれどイレーヌの姉が記憶を奪ったということになるとイレーヌが失った記憶はきっと楽しい綺麗な記憶ではないだろう。
 ウォルウールをどうにかするってことより、イレーヌが本当に記憶を取り戻したいのか、ちゃんと本人に聞かなければ。

「お前はそれでいいのか?」


 レイドは真剣な顔でイレーヌを見つめた。イレーヌは少し戸惑った顔をしてレイドを真っ直ぐ見つめ返す。


「お前の姉さんがお前の記憶を奪ったんだ。ろくでもない記憶かもしれない。思い出さない方がいいことかもしれない。

それでも、記憶を受け入れられる覚悟はあるのか?」


「……レイド」


 イレーヌはレイドの顔を見て少し悩んだような素振りを見せたが、すぐに何かを決意したような強い眼差を浮かべて口を開いた。


「怖い、すごく怖いよ。でもね、顔も思い出せないお姉ちゃんが、前に進む大切さを私に教えてくれたような気がしたから」



 イレーヌの揺るがぬ決意が込められた眼差しをまっすぐ見つめレイドは少し表情を緩めた。
 イレーヌはレイドが思ってたよりずっと強いみたいだ。


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