The Shine of Fenril

□裏切と覚醒
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 自らの故郷に必死に走って行くリラの腕をレイドは掴んだ。


「離せレイド!!」


「……落ち着け」


 リラは腕を思いっきり引っ張ったがレイドの力に敵うわけなくあっさりレイドに押さえつけられた。


「お前一人だと危ないだろ?」


 イレーヌと共に後から少し遅れてきたリックがリラを諭すように言った。リックの横で青白い顔をしたイレーヌもうなずいている。


「でも、町のみんなが!!」


 焦ったようなリラの声。気持ちはわかるが、さっきからこちらに近づいてくるいやな殺気の塊。

「そう簡単に行かせてくれるかな」


 レイドは長剣の柄に手をかけ小声で呟いた。リラは疑問符を浮かべてレイドを見つめている。
 しかしその疑問の答えはすぐにやってきた。太陽が落ちて茜色から青紫がかった色に変わり始めた空から不気味な羽ばたきの音が聞こえくる。


 思い出したくもない、けれど頭の中にいまだに鮮明に残っているこの音は世界から消えた災厄の翼が宙を舞う音。


「まさか……。なんでこいつらが?」


 リックは少し戸惑った表情で短銃の銃口を夕闇に染まっていく空に羽ばたく天から追放され地上に堕ちた天使たちに向けた。
 あれは《堕天使》。暁戦争を引き起こした偽りの女神アターシャの忠実なる僕でアターシャとともにこの世界から消滅した異端の存在。


「驚いてる暇なんてないぞ。この感じ、間違いなくこいつら堕天使だ」


 レイドは青白い顔をしたイレーヌを狙って降りてきた堕天使を斬り捨てた。空を見上げれば嫌になるぐらい大量の数の堕天使が控えている。


「ほんとに最悪」


 リラはそう吐き捨て可愛らしい剣を堕天使に深々と突き刺した。
 リラの持っている剣は折り畳み傘をモデルとして作られた代物。可愛らしい見た目とは裏腹に結構癖が強く扱いにくいが完全に使えこなせば凄まじい破壊力を誇る。


「レイド……よけて」


 イレーヌが青白い顔ですぐそばに来た堕天使を笑えるほど綺麗に蹴飛ばした。かなりしんどそうだが大丈夫なのだろうか?
 こんな数の敵を相手にしている今は、イレーヌには悪いが、心配していられる余裕はない。


「無理すんなよ」


「うん」


 イレーヌはそう笑顔でうなずき、堕天使に向き合った。本当にイレーヌには悪いが今はなんとかこらえてもらわなければ。


「おい仲良くしゃべってる暇あったら地上の
奴らの相手をしてくれ」


 リックは夜へと変わって行く空へ銃を向けてひたすら発砲し続けながら叫んだ。確かに放たれた弾は正確に堕天使を撃ち落としていくが、翼をかすっただけで飛べなくなったが地上でピンピンしてるしぶとい奴らも結構いる。


「わかった。地上は任せてくれ。一緒に行けるかイレーヌ」


 イレーヌはレイドを見て小さく頷いた。
 レイドは長剣を握りしめイレーヌは拳を握りしめ、地上に堕ちた飛べなくなった堕天使に向かって走り出した。
 リックの射撃を喰らってもしぶとく生きている堕天使達をイレーヌが華麗な武術で粉々に粉砕する。
 レイドも負けずと堕天使達を斬って斬って斬りまくる。どれだけ返り血が顔にかかろうが気にしない。
 つい3年前まではこんなのこと当たり前だったのだから。
 前後左右挟み撃ちにあっても堕天使の攻撃は単純。冷静に相手を見れば簡単に回避ができる。

 レイドは一斉に周囲から斬りかかってきた堕天使の攻撃を堕天使を足場にして空へ飛び上がり回避するとともに落下しながら剣を振り堕天使を刻む。


 沈みかけていた太陽はいつの間にか完全に姿を消し、空には白銀の月が輝きだしている。

 結構な時間堕天使を斬り続けているような気がする。そろそろ息があがってきた。

 レイドは荒い息を無理やり整え小さく舌打ちした。疲れてきたのはレイドだけではない。
 リラは一見まだ平気そうに堕天使を斬り刻んでいるが、よく見ると相当疲れた顔をしている。
 リックも集中力がきれてきたのかさっきから堕天使に攻撃が全くあたってない。

 それに対して疲れているこちら側への嫌がらせのように堕天使共は倒しても倒してもまたどこから次々と湧いて来る。
 これではいくら倒してもきりがない。


「蝿野郎どもが!!」


 レイドは片膝をつきながら闇夜から急降下してきた堕天使を斬り捨て吐き捨てるように叫んだ。


 このままでは体力使い果たしてこちらが倒れるまで戦闘が続いてしまう。かといってこの大群から逃げれる術はない。
 最悪の状況が頭によぎる。

 レイドは冷たい瞳でこちらを見下ろす堕天使を睨み付けた。



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