The Shine of Fenril
□裏切と覚醒
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堕天使達に囲まれて何分たっただろうか。戦いに熱中しすぎたのか視界がやたらと狭いし、音も聞こえない。
なにも考えられない、ただ剣を振るっている感覚しかなかった。
「レイド何してんだ!!」
リックがレイドを怒鳴りつけた。レイドはいつの間にか堕天使達に囲まれていた。
正直こんな数と戦う体力も気力もない。しかし堕天使はに剣を振り下ろしてくる。
レイドはとっさに剣でカバーしようとしたが横から斬りかかってきた堕天使に剣を吹き飛ばされた。
――ヤバい、殺られる!
堕天使の風を切り剣が降り下ろされる。その時、本当に運よくフィンの魔術が発動した。
「燃えろ、蒼き爆炎、仇なすもの全て消し炭にしろ!」
夜空が青い炎に包まれ爆音をたてて燃え上がった。威力はもちろん、とにかく派手な炎だった。
まるで花火のように美しい蒼い炎はあっという間に空を飛ぶ堕天使どもを焼き付くした。
「消えた」
イレーヌが夜空を見上げ静かに言った。運よく生き残った堕天使達もどうやら一旦退却したようだ。
これで、一件落着。そう安心していたレイドの視界が揺らいで真っ暗になって行く。
なんだか、体が重い。体が地面に倒れた音が聞こえたのが最後。意識がどんどんと遠退いていった。
「レイド!!」
イレーヌがあわてて駆け寄るがレイドは返事をしない。
「疲労がたまっただけだ。心配することはないどこかでゆっくり休めれば」
「そう、ですか」
イレーヌはホッとしたようにレイド見つめた。
確かにレイドはイレーヌたちより、ずっと多い数の堕天使の相手を一人でしていた。それは疲れるに決まってる。
「イレーヌ、俺はリラと一緒にウォーメンズタウンにちょっと行ってくるからレイドのこと」
「分かってる、レイドは任せといて」
イレーヌはリックとリラを見て、笑顔で頷いた。故郷がどんな状況なのかリラは一刻も早く知りたいわけなのだから。
「ところで、あんた達はどうするんだ」
リックは巨大な魔術を使った反動なのか、だいぶお疲れの様子のフィンと、顔についた血を拭うシスを見た。
「副長が向かったウォーメンズタウンに行く予定だったんだけどな。
姫をこんな所に一人置いてけないし」
フィンは困ったようイレーヌを見た。
コイツらこっちに隙さえあればイレーヌを連れて帰る気満々だ。
「私は!!」
「姫のとこには俺が残る」
シスが静かにしかし鋭く言った。
感情を滅多に表情に表さないシスはフィンよりかなり厄介な奴だ。何を考えているのかさっぱりわからない。
「俺が姫とコイツをすぐそこのレフィ保養地まで運んでおく。車か何かはあるだろな?」
「多分。わかった、姫はそっちは任せるぞ。
何かあったらメールかなんかで知らせろよ」
「あぁ」
シスは適当に頷いた。本当にイレーヌたちをコイツらに任せていいのか、リックは心配になりながらイレーヌたちに背を向けた。
「じゃあ行きますか?」
「ちょっと、何でアンタもついてくんのよ!?」
さりげなく2人の間に割って入ってきたフィンをリラは敵意MAXの視線で睨み付けた。
「だって俺疲れてるし、なんかあった時一人じゃ怖いも〜ん」
「も〜ん、とかキモ」
なんかリラが色々とフィンに文句を言いながら歩いていた後ろ姿はあっという間に闇の中に消えてしまった。
「俺だ、シスだ。
迎えの飛行挺でも何でもいい乗り物をよこせ。あぁ理由? 怪我人だ」
シスは無線機のようなもので部下だろうブツブツとやりとりを続けていた。
「なんで、私たちを助けたんですか?」
「陛下の御命令だ。そいつはただのおまけに過ぎない」
シスはそう冷たく呟いた。無表情な顔からは、まったく考えが読めないシス。いい人なのだろうか? 悪い人なのだろうか?
そう考えながらボーッとシスの顔を見ていたら、シスと目が合いイレーヌはあわてて顔を反らした。
「俺の顔がそんなに珍しいか?」
呆れた声と一緒に、空から大きな音が近づいてきた。あれが、シスが手配した乗り物なのだろうか。
新聞とか写真でしか見たことないが、こっち向かってきた物は大国フィラが世界に誇る飛行挺技術を結集させた飛行挺《クリミア》。
イレーヌは飛行挺とかそんなのに全然興味ないが、こんなに大きなものが空を飛ぶということが、とりあえずすごいということは分かる。
「早く乗ってくれ」
シスに言われてイレーヌは急いでクリミアに乗り込んだ。
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