The Shine of Fenril
□裏切と覚醒
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今思ったが一体どこからこんなにいっぱい堕天使が湧いて出てきたのだろうか?
やはりイレーヌを助けに行くときリックが見せてきたあの新聞の記事は……。
「そこの娘を渡してもらう」
堕天使の一人が感情のこもってないガラス玉のような瞳で、イレーヌを見つめた。
「ったくどいつもこいつも。なんでイレーヌなんだよ?」
「…人間に知る権限などない」
「……アターシャ様の命令か?」
アターシャという言葉を聞いて堕天使たちは一斉に表情をさらに固くした。
――やっぱりアターシャは生きてるのか?
この堕天使の数を見る限り、前にリックから渡されたウォルウール新聞の記事、『アターシャ復活』は少なくとも嘘ではないという事が分かる。
堕天使はアターシャの忠実なるしもべでもありアターシャの子どもとも呼ばれていた。
先の戦役で堕天使は死滅した。もし運よく生き残った奴がいるとしても数えられるぐらいの数で、見つかればすぐに殺されるだろう。
堕天使はアターシャがいないと生まれない。例え人間が造り出したせたとしてもアターシャから生まれた堕天使の半分も知性も力も持ち合わせていない《出来損ない》しか生まれない。
それに比べ今の堕天使は言葉を話した。
人間の言葉を話せる、そこそこな知能はある堕天使様がここにこんなにたくさん集まるということはアターシャが死んでおらずどこかで生きていることを確信させる動かぬ証拠がある。
「アターシャは生きていた、もしくは生き返ったってことか。厄介なことになったなぁ相棒?」
疲れきったレイド達の前に鮮やかな赤髪の男が現れた。
「俺はお前の相棒になった記憶はないんだが」
続いて現れた黒髪の男が赤髪の隣で不機嫌そうな様子で呟いた。
彼らはウォルウールでイレーヌを連れさらった帝国騎士団の師団長。たしか名前はフィンとシス。
「お前ら何でここに」
レイドは赤毛の男フィンを見てから、以前ウェンの墓の前でボコボコにしたシスを敵意満々の目で見た。
もしかしてこいつらあのシスコン皇帝イレーヌを連れ戻しに動いてる奴だ。
今もしこんな状態でコイツらと戦ったら確実に負けてまたイレーヌをあのシスコン皇帝の元に連れ戻されてしまう。
――ったく、せっかく帝都から逃げて来たのに
レイドは苛立たしげに舌打ちした。
「副長がウォーメンズタウンの調査に行くって言ったきり帰ってこないかちょっと来てみたらこうだ」
フィンはため息をつき堕天使の翼に覆われた空を見上げた。
「これぐらいお前お得意の魔術でやれるだろ」
シスはあくびまじりにかなり眠そうに言った。見てるこっちまで眠たくなってくる。
フィンは、はいはいと言いながら団服の中からスタッフより少し短い棒をとりだした。
「仕方ねぇな……。ちゃんと詠唱時間を確保してくれよ」
とシスだけではなく何故かレイドたちにまで訊いてきた。
下級魔術はそれほど集中しなくてもちゃんと魔術の基礎さえおさえてれば発動できるらしい(レイドは興味ないからできないが)
高等な魔術に成れば成る程、邪念を捨て精神を集中しないと魔術が暴発して術者に危害を加えるらしい。
どう考えてもシス1人でこんな大群の堕天使から詠唱中のフィンを守るのは不可能だ。フィンとシスは敵だが、今は堕天使を片付けることが最優先みたいなようだ。
「みんな、まだ行けるか?」
レイドはイレーヌのリックのリラの顔を順番に見た。3人共、かなり疲れきった顔をしていたが頷いてくれた。
――まだ、行ける。
レイドは剣を握り締め、シスの後ろに立った。
「足手まといにはなるなよ」
シスは静かにしかし迫力のある声でそう言うと鋭い反り返りを持つ、湾刀を抜いて堕天使に斬りかかった。
ここからは時間との戦いになりそうだ。
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