The Shine of Fenril
□復讐の彼女
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イレーヌを引きずりながら走ること数分。やっとリックの姿を見つけることができた。
リックは追い詰めた犯人に集中していてレイドたちには全く気がついていないようだった。
「あの綺麗な女の人?」
「違う」
イレーヌが犯人と勘違いしたのはリックの目の前に立っている東国の春日国出身であろう女性。
艶やかな黒髪を頭の一番高いところで結い神秘的に輝く漆黒の瞳を持つ美女。男なら誰もが思わず見とれてしまう。
しかし彼女はただの美女じゃない。
彼女が着ている漆黒の服は帝国騎士団の団服だ。その証拠に右の胸部にフィラ帝国のエンブレムがついている。
「飛鳥」
リックは呟くような声で美女の名前を呼んだ。
《飛鳥》その名前をレイドでも一度ぐらいは耳にしたことがある、現在、帝国騎士団副団長を勤めている女剣士だ。
飛鳥は綺麗な漆黒の瞳を細めてリックを見つめた。
「私の妹に一体何の用だ?」
「そのお前の妹に財布をすられたんだよ」
リックがため息混じりに呟くと飛鳥の後ろに隠れている、財布をすった少女をちらりと見た。
「そうなのか、リラ?」
飛鳥は鋭い目付きで後ろを振り返りリラを睨み付けた。
睨み付ける顔もまた美人だ、とバカなことを考えているとイレーヌに一発肘鉄をくらわされた。
「盗ったものを返しなさいリラ」
飛鳥にそう言われリラと呼ばれた財布泥棒は、小さく舌打ちしレイドに向かって財布を乱暴に投げつけた。
ようやく帰ってきてくれたサイフを開いて、中身が減ってないか確認したところサイフの中身は1リズたりとも減ってない。
本当によかったとレイドはホッと胸を撫で下ろした。
「何で私達の財布をとったんですか?」
イレーヌは暗い表情をしているリラに尋ねた。
確かになんでこんなたいして金も持ってなさそうなレイドから財布を盗ったのか気になる。
「アルバの暴挙を皇帝に伝えに帝都に行く途中……お金がなくなって」
リラは意外と素直に口を割ってくれた。
「その、アルバの暴挙ってなんなんですか?」
イレーヌが首をかしげてリラに聞いてみた。
飛鳥が《アルバ》と言う言葉に反応して顔をひきつらせる。
副団長様が顔をひきつらせる所を見ると、また色々とややこしそうなことに首を突っ込んでしまったようだ。
リラは深いため息をつき忌々しそうな顔をして口を開いた。
「あたしはウォーメンズタウンに住んでるんだ」
「ウォーメンズタウン。それはまた遠路はるばるご苦労様で」
リックはため息混じりにそう呟いた。
レイドの記憶が正しければ、ウォーメンズタウンは確かここブラウシーノから北東部の草原地帯にある先々代の女帝マリアが作った小さな町だった筈だ。
名の通り女性だけの町で、男は住むことはもちろん、許可状がなければ入ることもままらなない。
皇帝であろうと貴族であろうと例外は一切認めない。それが町の掟の筈だ。
リラが皇帝にどうこう言いに行くってことは、その絶対の掟が破られたということだろう。
「アルバあのクソ忌々しい豚野郎がいきなり町に侵入してきて訳も分からない契約を町長に突きつけたんだ!!
もちろん町長は契約書にサインしなかったさ。……そしたらアイツは、町長を……あたしのお義母さんを見せしめとして処刑したんだ!!」
リラは怒りで声を震わせながら言った。
リックも少し驚いたようだった。それもそうだ。町ができてからそんな馬鹿みたいな領主が現れたなんて一度も聞いたこともない。
リラの話が本当ならアルバは明らかに規約違反だ帝国の政治を執り行っている議会に問題提起すればすぐに罪に問われる。
しかし飛鳥は何故か顔をうつむかせた。
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