The Shine of Fenril
□復讐の彼女
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「どうしたんだ?」
リックは驚いた様子でレイドを見てきた。イレーヌも心配そうに見つめてくる。
そんなに心配そうに見られたらよけいに言い出しにくい。
しかし言い出さないと2人に怪しまれるし。レイドはため息をつき重い口をゆっくり開いた。
「……財布……すられた」
「はぁ!?」
リックもイレーヌも同じタイミングで絶叫した。
「それって財布ごとか?」
「一体誰に!?」
正直に言ったら、情けなくて恥ずかしくなってくる。しかし、二人の威圧感に圧倒されながらレイドは口を開いた。
「イレーヌより少し年上の女に」
しばらく沈黙が襲いかかってきた。
ぶつかってきた女に財布をすられるなんて思ってなかったのだ仕方ない。
「……いいたいことあるなら言えよ」
イレーヌの冷たい視線に耐えきれずにレイドはちらりと目線を反らした。
「とにかく、早く犯人を探すぞ! ここの料金は陛下からこっそり盗った金で払っとくから」
「あぁ」
――ダーレスから盗った金って、リック
そこにはあえて深く考えないようにしてレイドたちは《イレーヌより少し年上の女》を探すことにした。
急いで店の外に出てもそんな女の子なんていっぱいいるから分からない。
しかもおまけに街はウォルウールよりは狭いものの、道が複雑に入りくんだり別れていてややこしい。しかも統一された白い家が街をまるで迷宮のようにしたてあげていた。
今になって思い出したのだかブラウシーノの別名は《白の迷路街》
店を出て1本道の登り坂を登りきると、目の前には3本の道が続いていた。
「くそっ、イレーヌは左をリックは真ん中。俺は右を探す」
「うん」
「わかった」
イレーヌとリックは頷くと同時にそれぞれの道に向かって駆け出した。
――絶対見つけ出して一発殴ってやる。
レイドは心の中で強く呟くと、イレーヌたちに遅れて真っ直ぐ走り出した。
そんな白の迷路街で伝説の迷子っ子が果たして人探しなんてマネができるのだろうか。
「どうしようまさか道に迷っちゃった?」
早速、道に迷ってしまった様子のイレーヌはキョロキョロあたりを見回した。
しかしどこにも人影はなし。
とりあえずこれ以上先に進んだら本気で迷子になりそうなのでイレーヌは仕方なく来た道を引き返すことにした。
それにしてもこの街、同じような建物しか建ってない。住人は自分の家を間違えたりしないのだろうか?
自分だったら100%絶対間違える。なぜかその自信だけがめちゃくちゃある。
上の空の頭でそんな馬鹿なことを考えていたその時。
路地から黒いフードを被った男が飛び出してきて正面から激突してしまった。
「い、いたっ。
あっご、ごめんなさい!!」
イレーヌは慌てフードを被った男を見上げて謝った。
「いや、前見てなかった俺も悪いし。
それよりそっちは大丈夫か?」
かぶっている上着の黒いフードの隙間から微かに笑ってる顔が見える。
けれども、実は心の中でかなり怒っていたらどうしよう。そんな不安をよそに男は地面に座り込んでいるイレーヌに手を差し伸べた。
「あっ大丈夫です。
ありがとうございます」
イレーヌは男が差し伸べた手をとった。気のせいだろうか、なんだか懐かしい温かい雰囲気がする。まるで昔同じようなことがあったみたいに。
「やっぱ、どっか怪我してる?」
男が心配そうにそう聞かれた瞬間、イレーヌは慌て手を離した。
「だ、だ、大丈夫です。本当にスミマセンでした!」
イレーヌは男に頭を下げて足早に歩き始めた。
一刻も早く財布泥棒を見つけ出さないと。財布泥棒がまだこの街にとどまってくれてるとは限らないのだから。
「イレーヌ!!」
後ろから息を切らせてレイドが走ってきた。あんなに慌てて何があったのだろうか?
「どうしたのレイド?」
「どうしたのって、財布泥棒が見つかった」
「えっ、本当に!?」
「あぁ間違いない。今リックがそいつの後を追いかけてるから、俺らもさっさと行くぞ」
レイドは強引にイレーヌの手を掴んで走り出した。
「ちょっ、レイド!!」
いきなり走り出したレイドに引っ張られながらもイレーヌは後ろをちらりと振り向いた。
気のせいか一瞬、あの黒フードの男が、手を振って、こちらをみつめているように見えた気がした。
「何かあったのか、顔赤いぞ?」
「えっ?」
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