The Shine of Fenril

□霧雨の中で
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「よっレイド、怪我はもう大丈夫か?」

 2人を連れて食堂に入ると、ここら辺ではかなり珍しい、青い髪のスラリとした体型の男が爽やかな笑みを浮かべて話しかけてきた。


「リック、か。もうだいたいは治った」


 レイドは抑揚のない声でリックに返した。
 リックはこの孤児院を支えている少しお節介だがみんなの頼れるお兄さん的な存在だ。


「お前見つけた時びっくりしたぞ。
ウェンの墓の前にぶっ倒れてたし、いくら呼び掛けても返事はないし。
本気でアイツに呪われたのかと思ったよ」


「……ってことはリックが部屋まで運んでくれたのか?」


「まぁな、とりあえずめちゃくちゃ重かったけどな。
あっ、そのイレーヌの事は聞いた。どうせお前一人で行くつもりだろ?」

 レイドは驚いてリックを見た。
 行動パターンを完全に見透かされているではないか。リックは人の心でも読む力でも持っているのかと思いたくなる。
 リック相手に嘘を突き通せるわけない。レイドは観念して大きなため息をついた。

「……あぁそうだ」

 こんなこと言えば、お節介なリックは絶対ついてくるとか言い出すに決まってるのに。


「俺も加勢する」


 予想通りに返ってきた答えにレイドはまた大きなため息をついた。
 そもそもイレーヌが騎士団に連れていかれたのはレイドのせいであり問題だ。
 だから何の関係もないリックをわざわざレイドの為に帝国とのいざこざに捲き込むわけにはいかない。


「そのこととリックは関係ないだろ?」


 レイドがそうリックを冷たく拒絶するよう言葉を吐き捨てた時、おばさんがどこからか現れた。 そして握りこぶしをつくり黙ってレイドの頭の上に落とした。
 じんじんと押し寄せる鈍い痛みにレイドは顔をしかめた。


「レイドあんた、何で昨日あたしが反対したか、まだわかんないのか?
あんた一人でイレーヌは絶対助けられない。行ってもどうせまた昨日見たいにぼこぼこにされるのがオチさ」


 確かにおばさんのいうとおりかもしれない。
 けれどリックを連れていったら全然今回のことに関係ないリックが怪我をするかもしれない。
 いや下手をすれば命を落とすかもしれない。
 そんなことにならないようにする為にレイドは一人で行くと決めたのだ。


「おばさん!!」


 すぐさま反論しようとしたレイドの口をレイチェルは言葉でふさいだ。

「いいかい?
アンタは何でも一人で抱えすぎだよ。少しはあたしたちに頼りなよ。家族だろ?」


 家族。そう大切な家族だからこそ誰も傷付けたくないのだ。
 傷付いたり、手を汚したりするのはレイドだけで十分だから。

 けれどそんなレイドの心境とは裏腹にリックはレイドの肩に手を置いて

「そうだぞレイド。俺達一様兄弟だろ?」


 とか言ってくる。しかも準備万端のようで愛銃とその他色々な荷物を入れる小さなカバンをレイドに見せてきた。
 どうやらどう口で頑張っても意味がない。
 来るなと、どんなにきつく冷たく言っても、最初からついてくる気満々のようなのだから。


「リック本当にいいのか?」

 レイドはリックに恐る恐るそう訊いてみた。


「ん? あぁ悪い奴に捕まってる可愛い妹の為なら俺の命の一つやニつなんて軽いもんだ。
それに弟が張り切って無茶しないようにちゃんと面倒みるのも俺の役目だし」


 思ってることをうまく言葉にできないレイドとは違い、自分の思っていることを真っ直ぐそのまま口に出せるリックは本当に凄いと思う。
 けれどはっきり言われるとなんだか照れ臭かった。


「そのありがとう」


 嬉しさと恥ずかしさで赤くなる顔を隠そうと下を向いてレイドは小さな声でそう呟いた。リックは何も言わず肩にポンと手を置いた。


「話しがまとまったらほら早く食べる。腹が減っては戦はできぬっていうだろ?」


 おばさんはレイドたちを椅子に座らせてそう明るい笑顔を浮かべて言った。
 今日の朝食はおばさん特製の玉子料理だ。


「なんだそれ?」


 レイドがそう言った時、リックが皿に盛られた卵焼きを手でつまんで食べた。
 すぐにおばさんはリックを行儀が悪いと言って頭をおもいっきり殴りつけてからレイドの質問に答えてくれた。


「あぁ春日国に伝わる心得みたいなもんだよ。何事も空腹じゃできないしね」


 戦はできぬって別に宮殿に戦争をしに行くのではないのだが。


「とりあえず、いただきます」



 レイドは自家製のパンを手に取りかぶりついた。
 中はふんわりして一口食べると口の中にバターの味が広がる変わらないいつもの味。なのになぜかこの日の朝食はいつもの何倍も美味しく感じた。


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