The Shine of Fenril

□星狩り
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 レイドは大きな溜め息をついた。

 レイドはアルファとの契約を守れなかった。
 “レイド”を守ることができなかった挙げ句、全てを忘れて“レイド”の姿になりすましてアルファの目の前に現れた。
 きっと彼女はレイドのことを……いやフェンリルのことを憎んでいるに決まっている。

  契約は“レイド”が寿命をむかえるまで。あれは寿命で最期を迎えたというものではない。フェンリルのせいで“レイド”は死んだようなものだ。
 だから契約はもう10年以上も前から守られてない。
 それをアルファが知った今、レイドはいつ殺されてもおかしくない。もう《moratorium(モラトリアム)》として生きていられる期限はとっくの昔に過ぎたのだ。

 そのことを再認識すると、心臓を鷲掴みにされているような感覚が襲いかかってきて、生きている心地が全くしない。


「レイド真っ青だよ。大丈夫?」


 イレーヌが心配そうな顔をしてレイドと名前を呼び顔を覗き込んでくる。今はレイドという名前で名前を呼ばれていいのかさえわからない。“レイド”はもうどこにもいない、ここにいるのは化け物と恐れられているフェンリルだけなのだから。

「俺は大丈夫」

 レイドはそう言いイレーヌの真っ直ぐ向けられる視線から目を逸らした。

「それより早くここから離れないと……。追っ手とかいつ来るかわからないし……」


「追っ手まだ来てないみたいだし、レイドもう少しだけ休もうよ?」


 イレーヌはそう言いゴソゴソと上着のポケットの中に手を入れて何かを探し始めた。なかなか出てこないのか、結構奥深くまで手を突っ込んでいる。
 いったい何を探しているのか、疑問符を浮かべてその様子を見ていると突然イレーヌはレイドの手を取って手のひらに何かを乗せた。
 何かと思って見てみると、銀紙に包まれた飴やチョコレートだった。
 どれもどこにでもあるただのお菓子。
 しかしそんな普通のお菓子に混じって一つだけ、レイドの目に飛び込んできたお菓子があった。
 一番思い出したくない、触れられて一番痛い部分である《星狩り》の記憶を呼び覚ますモノ。


「ここにくる途中もらったの。レイドお腹減ってるかなって思って。
 あっ、その星形の飴はね、特別な素材を使ってて、とってもおいしいらしいよ」

 イレーヌがそう言い終わったのと同じタイミングにレイドは、目に飛び込んで来たお菓子、イレーヌがおいしいと説明した星形の飴をできるだく遠くに向かって投げ捨てた。
 たったそれだけの動作なのに、心臓の鼓動が異常に早まる。動悸が収まらない。

 いきなり飴を投げ捨てたのを見て、イレーヌが慌てた様子でレイドを見てきた。

「どうしたのレイド?」

「別に、なんでもない」

 そう、うつむいて言うと、レイドは白い息を吐いた。

 あの星形の飴によく似たものをよく知っている。しかし、レイドが知っている物は飴なんてかわいらしいものではない。
 甘いお菓子が大好きな子どもを騙すために作られた薬。それも暁戦争中に世界中で行われていた《アターシャ》を倒せる人間を造り出す計画のために使われたものだ。

 しかし、戦争が終わった今になってそんなものが出回ってるはずがないのだが、形や色はそれと全く同じ物だった。


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