The Shine of Fenril

□レイド
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 そう呼んだ瞬間、大きな物音を立ててテヌートは部屋に飛び込んできた。


「どうしたリラ。
 もしかしてあのバカが何かやらかしたのか……って、アースお前!!」


 テヌートはそう言うや否や、リラの腕を掴んでいるアースを見て表情をこわばらせた。
 どこも窓は開いてないのに、なぜだろう冷たい風が部屋に入り込んできて寒い。ガタガタと身体中が勝手に震え出す。
 アースも寒すぎておかしくなったのか、変な汗がだらだらと溢れてきている。


「誤解だテヌート。俺はなにもしてない!! というかこんながきんちょに手出すほど女に飢えてないからな!!」


 アースはリラから手を離してから数歩後ろに下がり必死にそう否定した。
 なんだか一部気にくわない発言をしていたが、リラは口にはださなった。
 それよりもアースが必死になって否定している顔があまりにも面白いので笑いをこらえるのが精一杯だった。


「そもそもテヌートお前が、周りに気付かれないようにしろっていうから、仕方なく俺はこうやって振る舞ってるだけで……」


 アースが必死になって話をしている中で突然小さな笑い声が漏れた。


 アースに突然睨まれたが、笑ったのはリラじゃない。リラは一様ちゃんと失礼のないよう声を押し殺して笑っていた。
 ならば笑った犯人は一人しかいない。
 リラは隣で可笑しそうに笑うテヌートをチラリと見た。もうさっきのような冷たい空気はどこにも漂っていない。


「んだよ、人が真面目に喋ってるのに笑って」

「……悪い悪い。やはり今の喋り方の方がしっくりくるなと思ってな」


 テヌートはそう言いまた笑った。
 それも普段リラたちには見せないとても柔らかい穏やかな表情だった。テヌートは本当に心の底から笑っている。
 一方でアースの方は笑われて決まりが悪いのか、むず痒そうにテヌートから目を反らして短く切った髪を掻きむしっていた。
 それにしても今の方がしっくりくるって、一体昔のアースはどんな感じの人物だったのだろうか。


「昔のアースってどんな感じだったの?」


 リラは思い切って聞いて見た。何だろう今この時に聞いておかないと後になってからでは聞けないような気がしたから。

「昔の俺?」


「昔のコイツは、とにかく最低な奴だったな。
 妻子がいるのに女をたぶらかして、それはもう見るに耐えないものだった」


 テヌートは辛辣な口調でそう言い捨てた。
 妻子持ちなのに、他の女とふらふら遊んでいたなんて信じられない。というかアースがそんな奴だったのが信じられない。
 アースの奥さんはアルファになるのだろうか? それともアルファはただの浮気相手で本妻はまた別人とか……。
 なんだかとてもドロドロした関係が明らかになってきたが、大丈夫なのだろうか。


「別にいいだろ。俺、女の子好きなんだし」


 悪びれる様子もなくアースはそうテヌートに反論した。
 別にいいとかそんな問題じゃないだろう。と突っ込みたくなる気持ちを通り越して呆れる。
 今更だが、アースとアルファを会わせてもいいのだろうか。なんだか大丈夫じゃないような、そんな気がする。


「それにアイツはそこら辺の女とは違うんだよ」


 アースはそう言った。
 不倫相手だろうがなかろうが、アルファはアースにとって誰よりも特別で大切な人に変わりはないのだ。
 アースは、女好きだとか自分で言ってるけど、実は1人の人を真っ直ぐに愛することができる純粋な人なのかもしれない。ちょっぴりアースに対する印象が変わったかもしれない。


 部屋が静かになってもまだ外は騒がしいままだ。短時間で静かにならないほどの騒ぎよう。一体何が起こっているのか。
 リラはカーテンを開けて窓からなにやら人集りができている歌劇場前を覗いた。



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