短編小説

□魔法のジャック・ランタン
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 ジャック・ランタンの灯りが灯る。

 いつもは電気の灯りが照らされている町も今日だけは、ずっと昔に戻ったみたいに炎の光が暗い夜の闇を照らしていた。 灯りも何もない虫が啼く草むらを掻き分けて僕は1人、町を見渡せる小高い丘を一気に駆け上がっていく。


 友達と一緒にお菓子をもらいに近所のおばさんたちの家をまわったり、家族で1年に1回のハロウィンパーティーを楽しむのもいいかもしれない。


 けれど僕は今日を誰よりも一緒に過ごしたい人がいるんだ。それはね今日、ハロウィンの日にしか会えない特別な人で、僕が世界で一番大好きな人。


 だから僕はその人に会う為に去年から今日まで、ずっといい子にしてこのハロウィンの日を待っていたんだ。だって去年、悪いことばっかりしてたからせっかく会っても怒られてばかりでお話する時間がなくなっちゃったから。
 だから僕は頑張って去年の僕よりもずっといい子になったんだ。いい子になったぶん今年は去年よりいっぱいお話するって決めてずっと楽しみに待ってたんだ。

 うっすらと丘の上のシルエットが見えてくると一気に心臓が激しく動き出した。きっともう少しであの人に会えるからだろうね。
 僕は息を切らして急な丘の斜面をなんとか駆け上りきった。

 真っ暗な丘の上でぼんやりと見える1本の大きなチェリーブロッサムの木。春になると綺麗な薄いピンク色の花を咲かせるその木の下が、僕とあの人の秘密の待ち合わせ場所。

 いつもは丘の上は誰もいない。けれど今日はいる。ポツリと1人の人影が見えると僕は疲れていることを忘れてまた走り出した。

 あの人の姿が見えただけでこんなにも心臓の音が大きくなるなんて絶対におかしい。けれどやっと会える、やっと。


 大きなチェリーブロッサムの木の下に揺れる人の影はどんどん近くなっていく。あと10メートルぐらい、9、8、7…。どれくらいか頭の中で数えているうちに、いつの間にかあの人とのキョリはなくなっていた。


「Long time no see mom!!」


 僕はあの人の顔をまっすぐ見つめて、息が切れてたせいで途切れ途切れになっちゃったけれど、そうにっこりと笑いながら言った。
 するとあの人も、にっこりと笑い返してくれた。それが嬉しくて僕はついまた笑ってしまう。

 なんだか昔からあの人の笑ってる顔を見ると、とっても温かくて優しい気持ちになるんだ。
パパだと全然そんな風に感じたりしないのに、なんだか不思議だね。


 1年ぶりに会えた大好きなあの人は、1年前と全く同じ髪型で、服を着ていた。
 本当になんにも変わってない。まぁ毎年のことだから僕はあまり気にしてないけれど。

 だってそんなこと気にするなよりも、いっぱい、いっぱい話したいことがあるんだ。
 学校でのこととか父さんが出世したからってがにもなくハイテンションになってたところを自転車に跳ねられて全治3ヶ月の怪我をしたこととか、犬のジャックにジャックよりも大きくて強いお嫁さんができたこととか、一気にあげきれないぐらい、いっぱいあるんだ。


 だからね今日はいっぱいお話しようね。
 もう二度と会えなくなってしまった人でも1年に1日だけ会わせてくれる、不思議な魔法のジャック・ランタンの灯りが消えてしまうまでさ。




I most love in the world mom!!(僕が世界で一番大好きなおかあさん!!)


 

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