短編小説

□真昼の流星群
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「流星ってのは今も流れてるんだぞ?
太陽光が眩しくて見えないだけでさ」


5限目の授業開始のチャイムが鳴る中、離れ校舎の非常階段の踊場に座り込んで一人ふてくされていた私の隣にいつの間にか彼はいた。
そして何故かそう得意気に笑ってそう言うと青く澄んだ空を見上げた。


「5限目始まっちゃったよ。私に星について語る暇あんならさっさと授業出てこいよ」

 私は膝に顔をうずめてそう彼に向かって少し乱暴な口調で吐き捨てた。
一体彼はわざわざこんな離れ校舎の非常階段なんかに何をしに来たのだろうか。
 私と彼は別のクラスだが、私の親友と同じクラスなので昼休みとかたまに喋ったりする程度の仲で特別親しい訳ではない。
それに親友や先生の話から私の中で、彼はクラスの中心的人物でしっかりしてる頼れる学級委員長的なイメージがいつの間にか作られていたので、彼がこんな場所で堂々と授業をサボっているということに物凄い抵抗を感じた。

「今空見ても、昼間っから星は見えないんでしょう?」

「いやいやたまにあんだよ。めちゃくちゃ明るくて光って真昼でも見える流星がさ!!」

「あっそ……」

目をキラキラと輝かせて喋る彼に私はわざと素っ気なく返事を返した。彼と喋ってるとなんだか調子が狂ってイライラする。
 私はいつも嫌なこと続きで気が滅入ったとき、溜まりに溜まった感情を吐き出そうとするときここに来る。ここは誰も来ないし、思いっきり泣いても誰にもバレないから。今日もいっぱい溜まったものを発散しようとした、なのに彼が現れて私の邪魔をする。最悪だ、本当に最悪。


 彼はそんな私のことなんてお構いなしに永遠と広がる青のグラデーションを帯びた天を見上げていた。ずっと空を見上げていたら首がだるくなったりしないのだろうか。一度夢中になれば、首のだるさなんて全く気にならないものなのかもしれないが。

「ねぇ」

「ん…なんだよ?
あっ、もしかして見れたのか!?」

「違うっーの。
流れ星ってさ、ゴミだよね」

彼があまりにも流星がどうとか言うから、かなり前に授業でやったことをふと思い出した。
流れ星が発生するメカニズムを。うろ覚えだが確か宇宙の塵が地球の大気圏に突入したとき摩擦で燃えてしまう。その燃えたときの光が私たちが知ってる流れ星みたいなことを先生が言っていた。
今まで綺麗だとか、3回願い事を言えば叶うとか言っていたものが、ただのゴミが燃えたものだと知ったときかなりショックだったような気がする。なんだがサンタクロースの正体を知ってしまったときと同じぐらい夢がなくなってしまった感じがしたから。


「あぁ、確かにゴミだな」

「ゴミってわかってんのになんでそんなにワクワクできんのよ。ゴミに3回も願い事するなんてバカみたい」

私がそう言うと彼は空から私に目線を合わせるといきなりお腹を抱えて笑い出した。一体何がおかしいのかわわからない。私はムッとした表情で笑う彼を睨んだ。

「お前、流星見たことあんの?」

「……な、ないけど?」

 星なんかたまに夜空を見上げて綺麗だな〜と思う程度であって別に彼みたいに興味があるわけではない。だいたい深夜や早朝によく見えるって言われる流星群なんて一度も見たことはない。別に見るために起きようとも思わない。


「だろうな、だって流星が消える前に願い事3回も言うなんて無理だぞ。アイツら願い事言おうとしたらもう消えてしまうんだからな」

「マジで?」

「あぁマジ。
けどそれをやろうと本気で思えばきっと叶うんじゃないか願い事なんてさ」

彼はそう言ってにかっと笑った。彼の笑顔に見とれていると一瞬視界の端で光のようなものが青い真昼の空の中に流れた。私は大きく口を開けたまままばたきをするのを忘れて、空を仰ぎ見た。もしかしてあの光が流れ星だったのだろうか。いやただの見間違いだったのかもしれない。

 けれどもしあの幻のような儚い光の線が流れ星だったら、真昼の明るさにも負けないぐらい塵は強く眩しく燃えて輝いて流れたんだろう。
流星なんてただの塵だ。願い事なんてしても願いは届かない。だけどなんで人は昔から流れ星に願い掛けるのか実際に見てわかったかもしれない。

 気が付けば、重く沈んだ心が嘘みたいに軽くなっていた。土砂降りの涙雨を降らせていた雲がいつの間にかどこかに行ってしまった。
私は必死に青空を見上げている彼の背中を叩いた。彼は少し大袈裟に驚いて私をまじまじと見つめる。

「おいおい、どうしたんだよ」

「真昼の流れ星って見れたら願い事叶うかな?」


そう言うと彼はさっきと同じような答えを私に返すと、また空を見上げた。



END


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