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復讐の2本の刃
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まだ夜が明けるには早い時間なのに、まだほの暗い上空は赤い光が輝いていた。

夜明けの光である暁の光のように…。


しかし空を赤く染めているのは、昇った太陽ではない。


全てを焼き尽くす真っ赤な炎。

真っ赤な深紅の炎が夜空を赤く焦がしていたのだ。

燃えているのは、世界最大の国家、フィラ帝国と宗教国家の聖カトリア教国との国境に立つ、秘密科学研究所ネイ・フラン研究所。

ここは、色々な生物の研究をしている施設で、数々の生体実験を行っていたそうだ。

火事の原因は実験中の事故…らしいが、何故かかなり嫌な予感がする。

ただの事故で済めばいいのだが…。


嫌な胸騒ぎを抑えて男は崩壊が始まった研究所に目をやった。

すると、炎の中から誰かが出てくる。

1人だけではない、何人も…何人も出口に向かってくる。


運よく生き延びれた研究員か…生体実験の被験者か…。

どちらにしても早く保護して…医療施設に送らないと。


「出てくる人物を保護しろ!!
連絡班はカトリアかフィラの医療施設に連絡を!!急げ!!」


「…しっしかし隊長生存者は、人間ではありません!!」

「何を馬鹿なことを…」

部下の言葉を聞いて男は呆れた顔をして炎の中に映る人影を見た。

人影はどんどん外へと近付き、そして炎に包まれた研究所の外に出た。


――あ…あれは…

男は、炎の中から何事もなかったかのように出てきた人物を見て驚いた。


炎の中から出てきたのは翼が生えた人間。

…天使と言ったほうが正しいかもしれない。

そしてその天使たちを従えるようにして出て来る朝焼けの空の色をした長い髪と、黄昏時の空の色をした瞳を持つ美しい女。

この世のものでない美しさからか、それとも異形の姿を目にした恐怖からか、男と兵士たちは、突然炎の中から舞い降りた女と天使を見て固まってしまった。


「…お前たちは…人間…?」


女の見た目どおり美しい声が夜空に響いた。
だけど…何故か嫌な胸騒ぎがする声。


その声を聞いて固まっていた男は我にかえった。


「…人間は…殺す」


女が静かに言うと、待機していた天使たちが翼をはためかせ、空へと飛び上がった。


「全隊、あの天使を迎撃しろ!!」

女や天使からただならぬ殺気を感じとり、男は慌てて兵士たちに命令を出した。

しかし…男が命令を出した時にはもう、誰一人息をしている者はいなかった。


一体何が起こったのか確かめる間もなく、男は天使たちに囲まれた。
どの天使も皆目が死んでいる。


「…貴様ら何者だ?」


腰に下げている剣の柄に手をかけながら、男は囲んでいる天使ではなく、研究所の前に佇み、冷たい目をこちらに向けてくる女を睨み付けた。

「…お前に答える義理はない」


女が興味なさそうに答えた声だけが最期に聞こえてきて、それから何も聞こえなくなった。


「…人間はこれだけじゃない……
まだまだ…いっぱいいる…」


女は夜明けの光がさし始めた東の空を見つめて静かに目を閉じた。


「…人間は全部殺せ。

…奴らに私たちと同じ絶望を…苦しみを与えてやれ!!」


女がそう叫ぶと、女の周りにいた天使たちは静かに朝焼けの空に舞い上がり姿を消した。



…私は…

許さない…

腐りきったこの世界を……

我々から故郷を奪ったお前たちを…

私は…

絶対許さない…。


陽暦3582年。
春の月も終わりの頃、真っ赤な朝日が昇ったころ。

人類の存続をかけた聖戦は静かに幕を開けた。









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