The Shine of Fenril

□夜空の下で動くもの
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 「教えて下さいレイドはレイドはどこに行ったんですか!?」


 そうイレーヌは黙ったままの2人に何回も何回も同じことを訊き続けた。
なんで2人がレイドのことについて頑なに話さないのかはわからない。もしかしたらレイド本人に口止めさせられているのかもしれない。

 どんな理由があろうと、ちゃんとレイドの居場所を教えてくれるまでイレーヌは同じ質問を繰り返すつもりだ。しつこいとか鬱陶しいとか思われても全然かまわない。
今はただどこかに消えてしまったレイドのことがほっとけない。このまま1人にしておけば本当にレイドがどこか遠くに行って消えてしまいそうで怖い。

 だから、だからレイドは化け物なんかじゃない、優しい人だとちゃんと会って言ってあげたい。
イレーヌの安い言葉なんてレイドにとってなんの気休めにもならないかもしれない。けれどレイドがこんな自分を受け入れてくれた時みたいにちゃんと想いを伝えて、レイドを受け入れてあげたい。


「お願いします!!」


 そうレイドを想いながらしつこく諦めずに粘って2人に頭を下げ続けていると、思いが通じたのだろうかシエラが大きなため息をついてゆっくりと口を開いた。

 レイドのこと教えてくれる気になってくれたのだろうと思い、イレーヌは今この街中で一番の話題であるカトリアの次期教皇との婚礼を控えた歌姫を真っ直ぐ見つめた。
今改めてよく見て見ると、見た目からしてイレーヌやリラとそんなに年が変わらないように見えるが不思議なことに何故か自分よりも何倍も何十倍も大人っぽく見えた。


「貴女がレイド…あの子のことを本当に思っているのなら、あの子のことはもう忘れなさい」


 歌姫は氷のように冷たい青い瞳をイレーヌに向けてそう一言だけ呟いた。それはあまりにも淡々と流れた台詞だった。
 てっきりレイドのことについて教えてくれると思い込んでいたのでまさかあんなこと言われると思ってもいなかった。
 そんないきなりのことで呆然とするイレーヌに更に追い討ちをかけるようにシエラは無表情のままただ冷たい視線をイレーヌに向けて言葉を続ける。


「それが貴女の為にもレイドの為にもなる。もしこれ以上事件の事をあの子が思い出したらあの子は…」


 最後の方になるにつれ声を小さくかすらせながらシエラは一度言葉を切るとまたすぐに声を絞るように言葉を続けた。

「これ以上…あの子を"本物の化け物"にしないで」


 シエラの口から出た"化け物"という単語がやけに重く胸の中にひっかかった。この街の人たちはレイドのことをみんな揃って化け物、化け物と呼ぶ。
それは13年前に起こった事件とレイド一体関係があるから?でも…なんで?それにシエラの言った"本物の化け物"って…。

 駄目だあれこれ考えてたら頭がパンクしそうになる。
投げ掛けられたシエラの言葉を頭の中で整理しているうちにシエラはイレーヌに背を向け大きな音をたてて階段を降りて行ってしまった。


 どれだけ考えてもそのシエラのイレーヌを蔑むような冷たい視線の意味もレイドを"化け物"と呼ぶ言葉の真意も全く理解できなかった。
 なんだか急にレイドがとても遠くにいる存在のように感じて無性に寂しくなる。よく考えれば考えるほど自分はレイドのこと知ってるようで何一つ知らないような気がしてたまらない。急に心が重くなってきてイレーヌはうつ向いた。


 一体これからどうすればいいのだろうか?レイドを探すにしても2人に教えてもらえないので居場所の手がかりは無いに等しい。
 リックたちに対してもそれは同じなわけでみんなどこにいるか、無事でいてくれてるかどうかさえわからない。駄目だ完全に行き詰まってしまった。




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