The Shine of Fenril

□赤い瞳
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 「キラキラ光る綺麗な赤い星を手にいれたフェンリル。
みんなにその綺麗な星を自慢して回るフェンリル〜♪」



雪を降らせている、ぶ厚い灰色の雲の隙間から微かに見える星空の下歌声が夜の静寂の中、街中に響き渡った。
この街の人間が憎んで憎んで仕方がない魔物フェンリルを面白おかしく歌った歌が。

そんな周囲の目など全く気にせずに歌っているのは、建物の屋上にいる黒いフードで顔を隠したまだ20代前半の若い男。

微かに見える口元に笑みを浮かべながら男は下の道を通る人間の冷たい視線もお構い無しに楽しそうに、災厄の歌を歌い続ける。


「綺麗でしょう?
そう言いながら掌に輝く星をトモダチに見せるお馬鹿なフェンリル〜
本当は星なんて、どこにもないのに」



男が10代の少年のような明るく軽やかな声で歌っているこの歌の主人公、フェンリルは13年前にこの街トロメイアで処刑された住民大虐殺事件の犯人がモデルらしい。

だからこの歌の歌詞はフェンリルが何故この街の住人数百人を惨殺したのかという経緯が描かれているそうだ。


「嘘つきフェンリル。お星さまなんかどこにもないじゃないか!!
嘘つきなのはどっちかな?
フェンリルはニコニコ笑ってみんなを見つめる〜」




****************


赤黒い水溜まりが歌劇場のホール中に敷き詰められている赤いカーペットに染みつき、なんともいえない臭いを放っている。
レイドは赤い瞳をギラギラと輝かせて、英雄ウェンと共に、世界を救った元《ロード》のフラールと群がるブラングル王国軍の兵士たちを睨み付けた。

血濡れた光輝く長剣を強く握りしめながら。
握っている左手は怪我一つないのに真っ赤に染まりきっている。



「ブラングル王国軍の意地にかけて何があっても13年前に殺しそこねた《あの化け物》を殺せ!!」



《化け物》その言葉を聞きレイドは不快そうに目を細めた。

奴らから見たら“異常な力”を持つレイドは恐れるべき“化け物”なのだろう。


後ろから奇声を発しながら剣を握りしめて走ってきたブラングル兵士をレイドは真紅の瞳で冷たく見下し容赦なく腹部に深々と長剣を突き刺した。

突き刺した長剣は兵士の体を貫通して、剣が刺さっている傷口からは少しずつ血が溢れ出す。

「…good night」


おやすみ…そう呟きながらレイドは突き刺していた長剣を一気に引き抜いた。
それと同時に長剣によってせき止められていた血が一気に流れだし、兵士は断末魔の叫びをあげることなく、驚きの表情を浮かべたままあっという間に動かなくなって逝った。


そんな兵士の大量の返り血を浴びたレイドは屍と化した兵士をなんの感情もない真っ赤なガラス玉のような視線を送った。


また鼻に鉄の嫌な臭いがこびりつく。



レイドは荒々しく長剣を振るって血を振り飛ばし、長剣の先っぽを世界で美しいトロメイア歌劇場が誇る大ホールの入り口に群がっているブラングル王国軍の兵士たちに突きつけた。


「1人1人相手にしても全然面白くないからな…。
そうだ、テメェら全員で俺にかかってこい」


レイドは喉をならしながら呟いた。
雑魚を1人1人相手にするのはかなりめんどくさい。
だから一回で数十人いや百人ぐらいいそうな王国軍を綺麗さっぱり掃除する方が効率がいい。


1×1は所詮1にしかならない。
雑魚が何人群がって来ようがレイドの敵ではない。


「なめやがって!



「化け物風情が図にのるな!!」

「…俺らの本気甘く見るんじゃねぇぞ!!

「化け物を殺せ!!」



レイドの軽い挑発がブラングル王国軍の兵士を刺激した。

しかし中には目の前で物言わぬ屍とかした仲間を見た恐怖からか、情けないことに悲鳴をあげながら逃げ出す奴もいる。

まぁそんな根性なしの兵士を除く、殺る気満々、いやレイドに殺される気満々の兵士たちは集団で武器を構えてこちらに向かってくる。


レイドは返り血で赤く染まった顔に狂喜めいた笑みを浮かべ真紅の瞳で兵士たちを見つめた。


「一回だけ警告してやる、逃げるなら今のうちだぜ雑魚野郎」


こんな挑発にのってしまった頭に血がのぼっているブラングル王国軍の兵士たちがもちろんレイドの警告を聞くはずもなく…。


「奴を、フェンリルを殺せぇぇぇ!!」

兵士たちの叫び声、足音それらが混ざりあい耳障りな雑音となってホールに響き渡った。




《君たちは僕のお星さまをとろうと嘘ついてるんでしょう?

狂ったフェンリル、さっきまで掌にあったお星さま。
今はトモダチの手の中でキラキラ輝いている〜♪》







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