The Shine of Fenril
□白銀の都市
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空を見上げれば、厚い灰色の空から氷の結晶が白く輝きながら白銀の大地に降り積もる。
あれから、“この国に魔物はいません”という謎の安全宣言を出した世間知らずの王子様(お荷物)を連れてレイドとイレーヌは朝焼けの色に染まるブラングル王城を出て極寒の雪原を歩き始めた。
「はっはっは〜
レイドお前歩くペースが落ちてきているぞ!!」
さっきからやたらテンションの高い王子様がうっとしくてたまらない。
というか…今アイツの声が遠くから聞こえてきたのは気のせいだろうか。
さっきまで少し前を歩いていたのに。
「お前先行きすぎだ!!」
今は500メートルぐらい先でこっちを向いて余裕ぶって笑っているカトレウスをレイドは指をさして叫んだ。
「…レイドたちが遅いだけだ」
旅慣れしていない誰かさんのために、こっちはいつもよりだいぶペースを落として歩いているのに……。
「王子歩くの速いですねー」
レイドの隣でイレーヌはカトレウスを見て感心しているし。
この2人の会話の相手をするのも疲れた。
…本当に一分一秒でも早くリックたちに会いたい。
しかしリックたちの居場所を示す手掛かりは絶望的なぐらいなかった。
だから唯一の手掛かりであるカトレウスの乳母の占いを信じてブラングル王城から数キロ北にあるけわしく連なる山脈の麓にあるブラングル王国第二の都市トロメイアに向っている。
しかしそこにリックたちがいるとは限らない。
所詮占い。レイドはたいした期待はしていなかった。
トロメイアはデカイらしいし、もしこの国にリックたちがいたら何らかの手掛かりが見つかるかもしれない。
「…やっと追いついたのか?
偉そうなこと言ってるくせに歩くのはおそいな〜」
近くでカトレウスの声がした。
…コイツ先に進まないで待っていたのか。
「お前が先々進むからだろ?
もう少し俺たちにペースを…「わかった。なぁレイドって………」
「……話そらすな」
王子様という生き物は本当に人の話を最後まで聞くということを知らないのだろうか…。
レイドはあきれて大きなため息をついた。
「お前は母親似なのか?」
しかも急に180゜全く違う話をしてくるし…。
「さぁ、どっちだろな」
レイドは遠くを見つめて呟いた。
母親似か父親似かって訊かれても親の顔を全く知らないレイドが答えれるわけがない。
――どっち似かこっちが知りたい…
レイドは大きなため息をついた。
「……レイド…」
「ん?あぁ大丈夫」
イレーヌの心配そうな目を見て、レイドは口元を緩めた。
今まで両親のことなんて考えたことなかったのに、最近よく考えてしまう。
……きっと昨日のあの堕天使野郎のせいだ。
アイツがバカみたいなことをぬかすからこんなこと考えてしまうんだ。
もう会えない親のことを考えるのはやめよう。
今はリックたちのことだけを考えないと…。
レイドは、すぐ前に見える街を囲む巨大な城壁を見つめた。
あれがトロメイア。
あそこにリックたちがいるかも知れない。
「カトレウス、イレーヌ、さっさと行くぞ」
レイドはさっきより歩みを速め、一歩ずつ城壁へと近付いて行った。
「あれなんか…僕…悪いこと言った?」
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