The Shine of Fenril
□闇のむこう
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深紅の炎が揺れる、パーティー会場。フィラ帝国や春日国などの主要大国からの援助で見事に復興を成し遂げた、ブラングル王国の復興記念パーティーが王国内のとある孤島にそびえる巨大な娯楽施設で開かれていた。
各国の王候貴族や有力貴族、軍部の幹部たちは、有名な音楽家や世界が認める歌姫、大道芸人などのパフォーマンスを鑑賞したり、ダーツやビリヤードをたしなんだり、コロシアムで開かれる命掛けの試合を観戦したりなどして、このパーティーを満喫している。
「アウロ!!」
そう呼ばれた黒髪の整った顔立ちの若い男――アレスは、自分の仮の名を呼ぶ小太りの中年男性の方を振り返り恭しく頭を下げた。
「どうかなさいましたか? ビヴィネス教皇」
抑揚のない声で一応返事をして、小太りの男を深紅の瞳で冷たく見据える。
「コロシアムの試合の賭けでな、次の試合お前はどちらが勝つと思う?」
今日1日だけで、10回以上にもなる、どうでもいい質問。知るかといい答えたくなるが、そういうわけにいかず、適当に答えを返すしかない。
「右ですね」
いちいちまともに、この馬鹿教皇にかまっていたら人生の半分を無駄に浪費しそうだ。
「……そうか」
ビヴィネスはブツブツとなにかを呟きながら、熱気が溢れかえる、コロシアムの方へと向かっていく。
その後ろ姿を憎しみと殺意に満ちた瞳でアレスは追った。
アイツさえいなければ。そう、今まで何回こう思っただろうか。
あの男さえいなければ兄も、その婚約者であり、初恋の相手である彼女もあのような悲惨な運命を辿らずにすんだかもしれない。
恨んでも憎んでも幸せだったあの頃は帰って来ない。
そう帰って来ない、そんなのわかりきっている。だけど、だけど。
やり場のない悲しみに暮れていると、ふとどこからか歌声が聞こえてきた。
心地よい低さの男の声。高音の部分も、男とは思えないぐらい綺麗な声。
このような歌声を持つ人物を1人、アレスは知っていた。
あの頃のまだ、家族と呼べる温かい存在が周りにいた頃によく聞いた、懐かしくそして切なくなるような哀愁漂う歌声。
今はもう世界中どこを探してもいない人を彷彿とさせる、この歌を歌っているのは一体誰なのだろうか。
気が付けばもしかしたら、という考えが頭の中を満たしていた。
いつの間にかアレスは無意識のうちに歌い手を探して、歌声が聞こえる方へと足を進めていた。
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