The Shine of Fenril
□砂塵の中の記憶
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血のような赤い暁の光が空を照らし長い夜が明けた。少し冷たい風が眠っていた頭を覚ましてくれて気持ちがいい。
あれからレイド達は国境を越え、フィラ帝国のお隣の国トラスタナ王国へやってきた。
トラスタナ王国は国土の半分以上が広大な砂漠である灼熱の地だ。
なぜこの国に来たのかというと、トラスタナ王都《フォール・クバン》から、秘境ノワール湿原に一番近い国、春日国に直接行ける連絡船が出ているのだ。
帝国にも春日国に行ける船はあるが、カトリア教国を必ず経由しなければならない。
カトリアに狙われている今、帝国から出ている春日国行きの船には乗れないのだ。
「まだ着かないの?」
「お前今までに何回同じことを言ってるんだ? 少しはレイドを見習え」
「アレはただ爆睡してるだけだっての」
「俺は寝てないぞ」
レイドは後ろからリラを睨み付けた。
「……イレーヌを見てた」
レイドはうつむいて小さな声で呟いた。
国境を越える前イレーヌを医者にみせた時言われたことが頭から離れないのだ。
『イレーヌさんが使われた術はおそらく《神術》と呼ばれる特集な魔術の一種憑依術ですね』
『憑依術?』
それは物知りなリックでさえも聞いたこともない名前だった。
『聖霊や霊の意思を自らの心とリンクさせる召喚術とよく似た魔術です。
威力は絶大ですがあまりこの術を使用すると精神のバランスが崩れて、彼女の精神が崩壊する危険性があります』
幸いイレーヌは今のところ精神が崩壊するほどバランスが崩れてないようなので大丈夫らしい。
しかしこれから先、もしまたイレーヌがこの力を使ってしまったらどうなってしまうかわからない。
レイドはただそれが怖かった。得体の知れないその術がイレーヌの記憶に繋がるかもしれないけれど、支払うべき対価が大きすぎる。
「前から思ってたんだけどさ、レイドとイレーヌってできてるの?」
リラの突然の発言にレイドは思わず吹きそうなった。そしてその反応を見て声を押し殺して笑っているリックの席をレイドは思いっきり蹴った。
「だって、レイドがイレーヌを見る目とあたしを見る目は全然違うし」
顔を赤くするレイドを見て面白そうに言った。
リラとイレーヌを見る時の目が違うって、そんなの当たり前のことにきまってる。まだ財布盗られた時のこと忘れてないのだから。
「何か勘違いしてるみたいだが俺とイレーヌはただの……」
「まぁイレーヌみたいな儚くて、可愛い女の子が好みの奴はそっこら中にいるからとられないように、早く……」
リラがそう言いかけて後の席に座るレイドを見た瞬間、苦笑いを浮かべたまま固まった。
後ろの席に座るレイドが真っ黒いオーラを噴出しながらリラを睨み付けているからだ。
砂漠の真ん中で外に放り出してやろうかと真剣に考えた。
成り行き上、仕方なかったこととはいえ、リラがこの旅についてくる義理はないのだ。別に砂漠の真ん中に置いてけぼりにしても誰も文句は言わない。
いやリックとイレーヌが文句を言ってくるに違いないが。
「もう冗談だってば!! アハハハ〜」
そういいすぐさま逃げるようにリラは前を向いた。
そんなふざけたことを言い合っているうちに目的地であるトラスタナ王国の都《フォール・クバン》が砂漠の彼方にうっすらとその姿を表した。
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