The Shine of Fenril
□霧雨の中で
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「おい、レイド起きろ!!」
「黒すけあさだぞ!!」
そんな孤児院の子ども達の大音量の声が耳元で聞こえてきたかと思えばいきなり頭やほっぺたを思いっきり殴られた。
そんなことしなくても最初の耳元での大声でちゃんと目が覚めてるのに。
叩かれた場所を抑えて、レイドは重くダルい目蓋を開けた。
「わかった、わかったから、殴るな」
そして顔をしかめながら上半身を起こし、わざわざ起こしにきてくれた子供たちを見て大きなため息をついた。
起こしにきてくれたたのは3番街でも評判の孤児院を代表する悪ガキであるイアンとラインだった。
この2人は1日1回窓ガラスを割ったり、壁に落書きしたり、花壇を荒らすなど、飽きずに悪事を働く、今が人生で一番のやんちゃ盛りな奴だ。
しかし今日のいたずらっ子たちは、いつもみたいな悪巧みをしている様子は全くなく、暗く沈んだ表情をしていて元気がない。
「どうした? 元気なさそうだな」
なんで元気がないのかはだいたい予想はつく。なのにレイドは無意識のうちに2人に訊いていた。
「なぁレイド、俺らもう絶対花壇荒らさないから!!」
孤児院の悪ガキの代表イアンが涙ぐみながら、レイドに深々と頭を下げた。プライドが人一倍高いイアンは、めったにこんなことしない奴だ。
「イアン」
「だから黒すけ早くイレーヌを連れて帰ってきてよ!!
……イレーヌがいないと、なんかわかんないけど寂しいんだ」
「ライン、お前ら」
頬を涙で濡らしながら今心の中で思っていることをそのまま素直にさらけ出したライン。
どうしようもない悪ガキ2人がこれだけ泣きながら、誰かに何かを頼むところをレイドは初めて見た。
2人とも、孤児院の花壇を荒らしたりして、毎日イレーヌの鉄拳制裁をくらって、いつか仕返ししてやるとか言いつつも、なんだかんだでイレーヌのことが大好きなのだ。だって血は繋がらないけれど大切な大切な家族なのだから。
「大丈夫。俺が絶対イレーヌを助けるから」
例え帝国騎士団全員に追いかけ回されることになろうとも、絶対に助け出す。
レイドはベッドから降りてイアンとラインの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「……レイド」
「どうした?」
レイドは眠たい目を擦りながらまだ何か言いたそうな顔をしている2人を見た。
「なぁレイド、そ、そのイレーヌ助けるからってあんま無茶すんなよ」
いきなり何を言い出すかと思ったらこれまた珍しい言葉が悪ガキの口から飛び出した。
「そうだぞ!! ウェンみたいにいきなり帰って来なくなったりするなよ!!」
2人なりの不器用なレイドへの気遣いなのだろう。
幼いながらもだいたいの事情がわかっている。だから尚更イレーヌだけでなく、助けに行くレイドの身も案じているのだろう。
不安そうな視線を送る2人を安心させるようにレイドは少しだけ口元を緩めて見つめた。
「大丈夫だって、俺強いし」
と言っても昨日ボコボコにされたので、いまいち説得力のない頼りのない言葉にしか聞こえてないだろうが。
「ほらさっさと朝飯食べにいこ。
食器がいつまでたっても片付かないって、おばさんに怒られる」
レイドはまだ心配そうな顔をしているイアンとラインを連れてとりあえず下の階の食堂に朝食を食べにいくことにした。
それに食堂にはきっとおばさんがいる。
昨日おばさんにちゃんと話しを聞いてもらえなかったから今日こそちゃんと聞いてもらわないと。
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