The Shine of Fenril
□レイド
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うるさい。騒がしくて寝てられない。
リラは上体を起こして舌打ちをするとベッドから降りた。
アースを監獄から連れ出してから目的通りアルファと面会するために、面会時間になるまで歌劇場近くの宿で休息をとっていたのだが、外がめちゃくちゃうるさい。安眠妨害もいいとこだ。
なんで寒い中、朝っぱらから元気に騒いでられるのだろうか。いくら寒い所に住んでるからって寒さを感じないわけはないだろうに。
リラは、まだぼやける目をこすり厚手のカーテンを開けて外の様子を伺おうとしたその時、いきなり部屋の扉が開いた。
寝起きの女の子の部屋にノックもなしに入り込んでくる不届き者は一体どこの何奴だ。
リラはあちこちに寝癖がついた髪を手で適当に整えながら、部屋に入り込んで来たバカを見た。
「おっはよ〜リラちゃん!!」
一体どちら様だろうか。部屋に入ってきたバカに見覚えがない。おそらく隣の部屋の人が間違えて入って来たのだろう。
そうでないとおかしい。朝からこんな鬱陶しい笑顔を振りまく奴なんてリラは知らない。
「ちょっ、何、ノーリアクション?
いくらなんでもそれはちょっと冷たすぎじゃない?」
いやそう言われても冷たすぎも何もない。アレが誰かわからなくて当然だ。
昨日まで、といってもつい数時間前まで、髪の毛ボサボサで無精髭をはやして、死んだ魚みたいな生気のない目をしていたアル中オヤジが、こんな語尾にハートマークがついてそうなぐらいはっちゃけて、『人生マジで楽しい、人生最高!!』……みたいな空気を漂わせる人間に変化するわけない。
空から大量の札束が豪雨のように降ってくるぐらい有り得ない。
きっと別人か、双子かなにかだろう。絶対にそうだ。
「何、本気で俺のこと無視してるの!?
……いやもしかして俺に見とれてるだけとか」
どうやったらそんな風に考えられるのか。本当にダメだ。完全にアレは壊れてしまったようだ。
アルファに会う前にまず頭を医者に診てもらわないといけない。医者に診てもらってちゃんと完治する病気ならばいいのだが。
「何、言いたいことあんならはっきりどうぞ!!」
「大丈夫、今すぐ病院に連れてってあげるから」
「あの、正常なんですけど?」
「自覚症状がないなんて相当な重症ね。……もしかしたらもう手遅れだったりして」
「ちょっとリラちゃん、人の話聞いてる?」
「大丈夫アース。早期発見早期治療が大切だから、今すぐに病院に行こ!!」
リラは頭がかわいそうなことになったアースの腕を掴んでとりあえず部屋から引きずり出そうとした。
しかしアースがなぜかリラの腕を掴み抵抗してきた。なんでわざわざ抵抗するのか。めんどくさい。というかアースは一体何がしたいのか?
ため息をついて顔を上げたその時、ふとアースと目があった。
なにか違和感のようなものを感じる。前見た時よりも随分スッキリしているような。きっと昨夜まであったものがないからだ。
そう、例えば……無精髭とか髪の毛とか。
「あっ、髪減った?」
「その誤解を与えるような言い方やめてくんない?」
「人間年取ったらみんな抜けるから気にしないで」
「リラちゃん、今すぐフォローって言葉辞書で調べよっか」
どうやらアースは髪とか髭とかと一緒になにか大切なものをどこかに落っことしてきてしまったようだ。
落とした物が見つかれば、頭の中にその落とした物をねじ込んめばアースは治るかもしれない。
まだアースがどうにかなる希望はある。だからアースのテンションがどんなに鬱陶しくてもキレたりしたらダメだ。
それは置いといて、とりあえず寝起きで調子がイマイチのリラ一人ではもうこれ以上アースのボケに突っ込みをいれきれない……じゃなくて面倒を見きれないのでテヌートという最強の助っ人を呼ばなければ。
多分名前を呼べばすぐに来てくれるだろう。
「テヌート、助けて!!」
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