いろいろ
□Present for you
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突然聞こえてきた声に、男は我にかえった。声のするほうを見れば、鮮やかなライトグリーンの髪の女がいた。女は男に微笑みたずねてきた。
「その曲は、どんな曲なんだ?」
普通ならば不法侵入をしてきたことに対し、文句のひとつも言うところだがそんな考えは浮かばず、訊かれるままに悪逆皇帝へのレクイエムだと答えた。
それを聞いた女は、驚いたような顔をした後きれいに笑って言った。
「酔狂な奴もいたものだな」
女は少女のようにくすくすと笑った。
全くその通りである。何故こんなものを創ったのか創った本人である男でさえ不思議な気分だった。だが、悪くないとも思えた。
もう一度聞かせてくれという女に男は自然と頷いていた。
男の指が鍵盤を叩けば、音は曲となり女と男だけの空間を満たした。その間、やはり女は微笑んでいた。
短いそれはすぐに終わる。
今度はタイトルは何かとたずねてきた。今しがた出来たばかりなので、まだ考えていなかった。男は少し悩み、やがて答えた。
『ゼロ・レクイエム』
考え付いたことそのままのタイトルだと思ったが、女の反応は少し思っていたものとは違った。タイトルを訊いてもきっとその顔は微笑んだまま名のではと思っていたのだが、その顔は驚愕と言っていい顔をしていた。
何か気に触ったのだろうかと思ったが、それは杞憂に終わった。女が声を上げて笑ったからだ。楽しそうに、嬉しそうに笑ったのだ。
「そうか。いい曲だが、世間には知られないことを願おう」
聞かせてくれてありがとう。
そう礼を言って女は去っていった。
その姿を見送った後、男はまた鍵盤を叩く。弾き終えたら楽譜は『ゼロ』の曲と共に燃やそうと決めて。
(この曲をあなたに捧げます。もしかしたら英雄であったかもしれないあなたに)