いろいろ


□Present for you
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世界は概ね平和だ。あの日、悪逆皇帝が死んだ日から世界は変わった。



 男はそこそこに大きな屋敷に住んでいた。今はテラスでティータイム。テラスにはピアノもあったが、その前に座ろうという気は男には無かった。

 そんな彼だが職業は作曲家である。少し前までは、反逆者『ゼロ』に尊敬の念を込め曲を作っていた。しかし、突然ゼロが失踪してからは全くといっていいほど手が着いていなかった。それは反逆者『ゼロ』が英雄『ゼロ』に変わってからも続いている。

 男は失望したのだ。世界を変えるかと思えた革命児が呆気なく世間から消え、帰ってきたと思えば民衆の味方になってしまったことに。そんなゼロにも失望したが、ゼロを見極められなかった自分の眼にも失望したのだ。それ故に彼は曲を産むことが出来なくなってしまった。

 おもむろに手に取った『ゼロ』への曲。もう全く意味のないものとなってしまった。男は楽譜を燃やそうと椅子から立ち上がった。

 ふと、彼の悪逆皇帝が頭をよぎった。今もなお世界に憎まれ続けている彼。彼が悪逆皇帝などと呼ばれる前までに行われたことは、ゼロがやろうとしていた事ではないのかと考えた。なんて馬鹿な考えだろうと頭を振って忘れようとするが、自分自身で納得してしまっていた。

 そう考えてしまうと、真の英雄は今のゼロではなく、悪逆皇帝である『彼』ではないのかなどとも思った。

 確かに彼は、世界を混沌へと至らしめ、数多くの人々を殺してきた。しかし、それがなければゼロはただの反逆者のままであった。ヒーローは悪があるからこそ成立するもの。英雄『ゼロ』も彼の暴虐武人な振る舞いがあってこそ生まれたものだと言える。しかし世間、世界はそれを認めない。

 哀れなことだ。

 男は何日ぶりかにピアノの前に座った。そして曲を作り始める。ほんの遊びだから、世間は知ることはないだろう。


 それからしばらくしてそれは出来た。とても短い曲だ。男はそれを弾き始める。
 この曲を『彼』が聴いたら一体どんな顔をするだろうか。会った事もないし、会ったところで分からないだろう事をぼんやりと考えながら男は弾き続けた。

「なかなかいい曲じゃないか」
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