命あっての物種

□さよならの意味
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あのとき言ったさよならは
あなたのための言葉じゃなくて
私が格好付けたいが為の
ただの境界線にすぎない言葉







さ よ な ら の 意 味












ありがとう、と言えたならどんなによかっただろう

あのときあなたに放ったあの冷めた言葉は、思えば愛情の裏返しだったのかもしれない

あなたの固まった表情に、私は酷く驚いたの

だって、だって私は

あなたがもう、私を好きでないと思っていたから

その事実に気づいても、もう私は引き返せなかった

私もあなたもプライドが高いから、その言葉を否定することなどできなかった

だからもう、戻れない

だからもう、戻らない

あなたが私を想っていたなんて、ただの自惚れだと勘違いして

捨てられる前に私から、なんて幼稚な考え

振られるのが格好悪いから、そんな理由で私はあなたに告げていた




──さよなら、もう会うこともないでしょう





私は泣いていた
なんでかなんてわからない
ただ言えることは
悲しかったから
あなたにはたくさん迷惑をかけた
あなたにはたくさん、
たくさん愛してもらった
なのに私はあなたを裏切った



私がいけないのに、意味も分からず流した涙をあなたは優しく拭ってくれた


下から上へ、水滴を辿るその温もりに縋りそうになる理性を抑えて私は唇を噛んだ


熱く弾けそうな脳内、ふいに見せた哀しすぎる笑顔に止まらない涙はあなたを困らせた





──もう会わないなら、最後ぐらい優しくさせてくれ




呟いたあなたに抱き締められて、もう私は動くことが出来なかった




ずっとずっと考えてた

このままあなたと結婚して、一軒家を買って子供が産まれて、犬を一匹買ったら休日にみんなで散歩に行くの

そんなありきたりな夢を見ていた

隣にはもちろんあなたが優しく笑っていて、私も笑っていて

そんな幸せなことを考えてた






──さよなら





夢を壊したのは私



このさよならはあなたのために言ったんじゃなくて、ただ私が私を守るために言った言葉





──さよなら





いつのまにか離れていったあなたの背中を涙で霞む視界に捉えてまた泣いた






──渡すつもりだったんだ、なかなか渡せなくて





私のコートのポケットに詰め込まれた四角い箱、ダイヤモンドのついたエンゲージリング


はめてくれる人はもういない




──さよなら、もう会うこともないでしょう




結局私は最後まで、私が可愛かっただけ







2009.12.28 あい
 

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