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□届かないアイラブユー
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彼等が帰ってきたとき、俺の中にあった漠然とした不安は事実になった。
飛び込むようにして俺の部屋にきた野猿と太猿は、ただひたすらに涙を流していて。
わき上がる咆哮にも似た嗚咽を隠そうともしなかった。
最初は何が起きているのかさっぱり分からなかったが、彼等の嗚咽に混じった呟きで、すべてを飲み込んだ。
何があったのかは知らない。
それでも、ユニ様と、γ、が、もういないのだと、それだけは理解できた。
γの事が好きだった。
いつ頃からかは分からないけど(きっと、初めて見たあの日から)。
γは、ボスの事が好きだった。
恋愛感情に疎いファミリーの中で、それに気付いていたのは、きっと俺一人だけだった。
γも、そういう感情があるとは気付かれないように振る舞っていたし。
けれども、ボスを遠目から眺めるときのγの表情、彼がボスに恋心を抱いていると知るには余りにも容易で、そしてその切なそうな表情に、俺まで胸が苦しくなった。
そして彼女が死んで、γは失恋した。
それでもγの心には深くボスの存在が刻み込まれていて。
精神が限りなくボスに近いユニ様に、γが淡い恋心を抱くことは、何ら不思議でなかった。
そこにつけこんだ俺は、きっと最低の人間だ。
行き場を失ったγの気持ちを、掬いとるふりをして、自分のいい方へ誘導した。
誘ったのは、俺。
酒に酔ってその勢いのまま、俺たちは身体を重ねた。
そしてその境界線を一度跨いで仕舞えば、酒を飲む度に、同じことを繰り返すのは容易かった。
どちらも、例え情事中であろうと、好きだとかそういう言葉を発したことはなかったように思う。
ただ身体を重ねるだけの関係。
身体を繋げるということがイコール愛になるだなんて思うほど、俺たちはガキじゃなくて、純粋でもなかった。
それでも、愛があろうとなかろうと、γにキスをされれば、果てない幸福感が自分を蝕んでゆくようで。
それに満足などしていなかったが、後悔することもなかった自分を、ずるいと思う。
γがいなくなるなんて考えもしなかった俺は、彼に思いの丈を伝えようだなんて思わなかった。
言ってしまえば、身体だけの関係すらも切れてしまうと確信していた。
でも、こんなことになるなら、こんなことになるだなんて知っていたら、俺は彼に好きだと、愛しているのだと、伝えただろう。
嫌われても、気持ち悪いと思われてもいいから、想いを伝えるべきだったと今更のように思う。
γの事を思うと、胸が締め付けられるように苦しくなる。
それはきっと後悔の念。
伝えればよかった。ただそれだけが頭を支配して、彼の顔を思い出しては、息がつまりそうになる。
さっきまで全く出なかった筈の涙が、急に、思い出したように溢れてきた。
γ。
小さく呟いたつもりが出てきたのは只の嗚咽で。
それをいいことに俺はただ、彼の名前を呼び続けた。
γ。好き、なんだ、どうしようもないくらいに。
届くことのない言葉を胸に、それから俺はただ、年甲斐もなく泣きじゃくった。
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