消えない記憶 シリーズ

□花霞夢結び
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二、夢うつつ

1993年、秋、
あの夢を見た・・・
もう朝はだいぶ涼しくなってきたはずなのに、私の額には汗がにじんでいた。
私は目を覚ましてからも、しばらく布団の中で夢うつつだった。

私は、篠原(しのはら)裕美(ゆみ)24歳。
一応、18歳で高校を卒業してから銀行に就職。
景気もすごくよかったから、少し親のすねもかじったけど、こうして一人暮らし用のマンションも買ったりして順調だった。
けど・・・

バブル崩壊。
私はこの歳で、一回職を失っていたりする。
その後は、近所の工場の事務に勤めるようになった。
小さな下請けの会社だけど、バブル崩壊の時も生き残った、生命力のあるところだ・・・と思う。

そんな私には今、縁談の話が来ていたりする。
・・・しかも、世間的に言えばかなり幸せな。

相手は、バブル崩壊の時もびくともせず、今の平成不況にも動じない、大手松岡グループの所有する会社の一つ、機械関係の製品を販売する…私の勤める工場の親会社の若社長。
松岡(まつおか)辰郎(たつろう)さん、今年で29歳とのこと。
この年齢で結婚していないのは、決してモテないからではないはず。
顔立ちもなかなかハンサムだと思うし、背も高い。
礼儀正しい人で、仕事もできる。
そして何より、彼は・・・
グループの取締役の一人息子で、後にグループを継ぐことが約束された人。

そんな人が、何故私なんかを・・・。
以前、工場の視察に来られた時に、工場長に頼まれて案内をしただけ。
その時に、一目惚れをした・・・そう言われたけど、簡単に信じられるものじゃなかった。


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