記念小説

□一万打記念小説「宏ちゃんとボク」
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ボクは、おうちに帰った。

そこにはもう、お母さんは帰ってこないけど。
そこが、ボクが生まれたところだから。

それに・・・もうボクはさみしくなんかなかった。
宏ちゃんが、いてくれるから。

「ゆうー!」

宏ちゃんの声が聞こえると、ボクは飛び起きて、おうちを駆け出す。

“ゆう”っていうのは、宏ちゃんがボクにくれた名前だ。
宏ちゃんがおうちまで送ってくれたとき、

「ぼく、ひろゆき。お前、なまえなに?」

そう訊いてくれたけど、答えられなかった。
しゃべれないから、じゃなくて・・・
ボクは、誰かに名前で読んでもらったことがなかった。
何にも言わないボクに、宏ちゃんはうーん・・・て悩んだ後、

「じゃあ・・・お前は、きょうから“ゆう”な!わかったか?ゆう!」

ボクに、名前をくれた。
ボクは、“ゆう”になった。
ボクはうれしくて、大きくうなずいた。

「ゆう。今日は、お肉もってきたんだ。」

宏ちゃんは、給食のおかずとか、パンとか、牛乳とかを持ってきてくれる。
学校を休んだお友達の分をもらってきてくれたり、自分が食べるのをがまんしてもってきてくれたりする。

「ゆう、おいしい?」

ボクは、しゃべれない分、宏ちゃんに、ありがとうって、笑った。
ボク、うれしいんだよ、て。



宏ちゃんは、いつも小学校が終わると、ボクのところに来てくれる。

公園に遊びに行くと、宏ちゃんと同じくらいの年の子たちは、みんなお友達と遊んでいた。
宏ちゃんは、学校のお友達と遊ばないのかな?

その理由は、宏ちゃんが、元気じゃないときに話してくれて、わかった。

宏ちゃんは、まだ小学校でお友達がいないんだって。
だから、学校では一人で、さみしいんだって。

宏ちゃんが悲しそうで、ボクも悲しくなって・・・
ボクがいるから・・・宏ちゃんは一人じゃないから・・・
そう言いたくて、宏ちゃんの足にくっついた。
ホントは、前に宏ちゃんがボクにしてくれたみたいに、ぎゅってしたかったけど・・・
ボクの体は小さくて、できなかった。

「ゆう・・・ありがとう。」

そんなことしかできなかったけど、宏ちゃんはわかってくれたみたいで・・・
しゃがんで、ボクの頭をなでてくれた。
頭をさわられるのは、なれてなくて変な感じがしたけど・・・
ありがとうって言ってもらえたことがうれしかった。

「ゆうは、ぼくのしん友だからな。」

本当に?
ボク、宏ちゃんの親友でいいの?

「ゆう・・・ずっと、いっしょだぞ?」

うん!
ずっと、一緒・・・

一緒に・・・いたかった・・・




しばらくすると、宏ちゃんにも学校のお友達ができた。
当たり前だよね。
宏ちゃんは、すごくやさしい、いい子なんだから!

宏ちゃんが楽しそうなのが、うれしかった。

けど・・・
少し、寂しかった。

宏ちゃんは、今まで通り食べ物を持ってきてくれたし、一緒に遊んでくれた。
でも、ときどき・・・食べ物だけ置いて、お友達と遊びに行っちゃうようになった。

わがままを言っちゃいけない。
そう思うのに・・・
宏ちゃんが取られちゃったみたいで、ちょっと、嫌だった。

宏ちゃん・・・ボク、宏ちゃんに教えてもらったこと、がんばって覚えたんだよ。

言葉がしゃべれない代わりに、気持ち伝える方法考えようって・・・
宏ちゃんとお話したくて、がんばって覚えたんだよ・・・


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