記念小説

□『三周年記念』俺のそば離れんなよ
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5 俺のそば離れんなよ


初めは、ただの後輩だった。

尊敬する大先輩に託された子、
唯一俺よりも年下の後輩

仕事仲間の中でも、特別な存在になるのは必然だった。

まだ小さいのに作り笑いをしてるのが気にかかった
いつ頃だったかの任務をきっかけに、俺に対しては時折笑顔を見せるようになったけど・・・
それで問題が解決したわけじゃなかったんだ。

その頃は、ただ単純に、笑顔を見れたことがうれしかった。
自分だけを、頼ってくれてるみたいで・・・独占欲というのか・・・まぁ、ガキだったと思う。
わかっているのは俺だけなんだから、支えになってやらなきゃって思った。

その頃の気持ちは、大事な弟ができた・・・という感じだったか。

巧真殿との微妙な関係を知ってからは、二人とも好きだったから、どうにかしたいと思った。
他人の俺に出来ることなんて限られてるけど、それでも。

新月の日の任務を境に、少し二人の関係が良好になったと思ってた。
何があってああなってたのかは分からないけど、空気が前より柔らかくなったように感じた。
今度こそ、本当の笑顔で過ごせるようになる
そう、思ってた。

『巧夜』が消えたのは、いきなりだった。

俺の位が上がったり、仕事にも慣れてきていたから、それぞれ仕事をこなすようになって、
自然と、仕事が被ることが減っていたころ。
久しぶりに塔であったと思ったら、双子の姉だという子を連れていた。
顔も髪型もそっくりで、驚いたことを覚えている。

姉の世話役になって、いよいよ俺の出番は無くなった。
でも、同じ隊の仲間として、友人関係は続けていきたいと思っていたし、
弟みたいな存在は、俺の中で大きな、大切なものになってた。
なのに・・・
だから、妙によそよそしい感じになったのが、予想以上にショックだった。

気のせいだと言われればそれまでだけど、やっぱり何かが違う。
俺の気遣いに対して、照れたり、そんなに頼りないのかと拗ねたりすることはあったけど・・・
困った顔をされたのは、初めてだった。

相変わらず、笑顔だったけど・・・何かが違うんだ。
みんなに対して、作り笑顔じゃない。純粋な笑顔で接している。
いいことだと思う。
でも、その笑顔は・・・俺が知る物とは、何かが違った。

俺に見せる笑顔が、ぎこちなく感じた。
思い込みかもしれない。でも・・・
今までは、俺にだけ見せてくれていた本物の笑顔。
なのに今は、俺に向ける笑みだけがぎこちない。

そのことが、無性に悲しかった。


切ない・・・いつかの『巧夜』を思い出させる笑みをみせる朔弥に気づいたのは、いつだっただろう。


今、かつての『巧夜』は朔弥として、そばにいる。
大切な存在が返ってきたことが、素直にうれしい。

でも・・・
周りには、奇異に映るらしい。
俺と、「朔弥」は接点があまりないはずなのに・・・と。
俺が、任務のパートナーに朔弥を選んだことがあったせいもあるだろう。

『巧夜』は面倒見ることを任された後輩だったし、男だから、仲のいい仕事仲間・・・そう、普通に受け止めてもらえていた。
でも、朔弥は女だから・・・
そんな理由だけで、心ない噂が飛び交う。

王族に近づくために、弟を利用したとか、
任務に乗じて、俺を誘惑してるらしいとか、

うんざりする。
なんで、そんな考えになるのか。
性別なんて、関係ないじゃないか。
俺は、朔弥を大切な友人だと思ってるんだから。
弟みたいな存在・・・だったのが、妹みたいな・・・に変わっただけだ。

今までは、こういうことは嫌いで避けてたけど・・・今回ばかりは利用させてもらおうじゃないか。
バカなことを言うやつらは、王族の権力を使ってでも黙らせる。

朔弥に・・・
そして、尊敬する巧真殿や、巧夜を辱めるようなことを言うやつは、許さない。


だから・・・朔弥。
もう・・・


俺のそば離れんなよ


何を言うやつがいたって、俺が、守るから・・・


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