記念小説

□『三周年記念』馬鹿、また頑張りすぎてる
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4スオウ


姉貴に頼まれたあの日から、ずっと朔弥を見てきた


朔弥のことを言葉で評価するなら、「努力家」である・・・かねぃ。
みんなが言うような天才じゃねェことは確かだ。
どこで覚えてきたのか・・・たぶん、光月の家の図書室かなんかの本か?
いろんな方法で鍛錬を積んでいく朔弥は、とても二桁にもなってないガキ・・・しかも女の子とは思えなかった。

なんであんなに一生懸命なのかね・・・
光月家の・・・旦那と子どもたちの微妙な関係は、姉貴からも聞いてたし、知ってる。
でも、それと朔弥の行動は結び付かなかった。

朔弥が巧夜・・・双子の弟として、任務を受けるようになったって話を聞いた時は驚いた。
朔弥は、それが目的であんなに頑張ってたのか?
そういやぁ、鍛錬しながらちょいと、それらしい言葉を口にしていたことがあった気もする。

でも、まだ七歳。
しかも、人狼の力は出にくいなんて言われてる女の子。
二年間見てきて、その努力は知ってたけど、まさかこんなことになるなんてなぁ。

弟の代わりをしている間は、自分を見てくれる・・・とでも思ったのか、

しっかし、光月の旦那もわからんことをする。
いくら朔弥が覚醒したからって、弟の代わりに仕事させるなんて、何を考えてるんだかねぇ。

朔弥が望んだんだとしても、朔弥のためにも、巧夜のためにも、絶対にやっちゃならんことだと思うんだが。

奥方が亡くなってから、あの家はどうもおかしい。
旦那も、何がおかしいのかよくわかってないのかもしれないねぇ。


朔弥たちが、十歳を過ぎたか、そのくらいの頃
いつも通り、森で鍛錬をしていた朔弥のとこに、珍しく旦那が来た。

しばらく様子を見ていたけど、朔弥が旦那に気づいたら、近づいて行った。
その時に、俺に、ちょいと目で合図する。

了解っと。
俺は慣れた仕事をこなす。
大したことじゃぁねェ。
ちょいとばかし、人払いってーか、
あとは、防音効果?
そんな魔法を森の一角・・・今俺らがいるところにかけた。

まぁ、こんなことしなくてもほとんど人は来ねぇけどな。
念のためってヤツだ。

んでもって、朔弥に何を話すのかと思ったら・・・

人払いした時点で、なんとなく予想はついてた。
きっと、入れ替わりに関係することだろうってな。

旦那が言ったのは、入れ替わりが終わった時のための事務連絡?みたいなものだった。
朔弥が『巧夜』として経験したことは、全て巧夜の物とするべきである。
周りに内緒で入れ替わってる時点で、当たり前のことだ。

でも、
今更確認するかぁ?
朔弥だって、そんなことはもうわかってるはずだ。

それに、言い方もどうかと思う。

これじゃあ・・・
あくまでも、朔弥は巧夜の代わりでしかない
『巧夜』であった間の自分は消せ
そんなことを言っているようなもんだ。

『巧夜』から朔弥に戻った後、自分の中に『巧夜』としての経験から思ったことを秘めていることもさせないつもりかぃ?

旦那は不器用な人だ。
家族を大切に思っていることはわかってる。
けどな、
もう少しどうにかできねェのかよ。

俺がイライラしてる間に、旦那は消えちまった。
きっと、屋敷に戻ったんだろう。
残された朔弥が・・・見ていて、心が痛かった。


「巧夜も、こんな生活嫌だろ?」
「オレは、一生『身代わり』で過ごすつもりはない。」

ある夜に、鍛錬をしていた巧夜のとこに来た朔弥が言った言葉。
本心だとは思う。
でも・・・正しいことが、自分の望むことであるとは限らない。

それでも朔弥は、本当に物分かりのいい子で・・・

「…知ってますから、オレ。…エミリは、優しいんですよ?」
「だから…大丈夫なんです。」

姉貴とのことを心配して、懇願にも近い気持ちで言った言葉。
でも、朔弥からの返答は意外だった。
その気持ちに、嘘はねぇと思う。
でも・・・


馬鹿、また頑張りすぎてる


物分かりのいい、優しい、いい子。
本当にそれだけか?嘘は言ってねぇだろうけど、
言ってねぇことが、あるんじゃねぇのかぃ?

朔弥が望むなら、他のヤツには言わねぇからよ、
少しは、休んでもいいんじゃねェの?



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