記念小説

□『三周年記念』「俺が」頼られたいんだ
1ページ/1ページ



2.シンリ


いつものように学校に行って、午前中の授業を済ませる。
今日は、1、2限同じ授業を受けていた朔弥と二人で昼食。

2限は巧夜君も一緒だったけど、巧夜君は2限で今日の授業が終わりだから、すぐに帰って修行をするらしい。

僕らは3限が空いてて、4限にまたそれぞれ別の授業が入っている。
お昼をのんびり食べられるのがうれしい日課だ。

「今日は、どうする?」

そうはいっても、空き時間ずっとお昼を食べてるわけじゃないし。
いつも、課題をやったり、本を読みに図書室へ行ったりして過ごしている。

「・・・・・・朔弥?」

どうしたんだろ?
返事ないとか。
いつもと違う感じの朔弥に、僕は首を傾げるしかなかった。

「あ・・・悪い。少し・・・考え事してた。」
「考え事?」

自分に掛けられた声に気づかないくらいなんて、珍しい。
なんか、悩み事でもあるのかな?

「うん。・・・この後だったよね。シンリ、課題終わってる?」

でも、朔弥はいつもの調子に戻って、会話を続ける。

「あ・・・えっと、ウェイグル語の課題が、まだ少し・・・」
「明日提出だろ?急がないと。」
「朔弥は終わってるの?」

ウェイグル語は、朔弥もとっている科目だ。

「昨日やった。・・・・・・あ。」
「どうかした?」
「・・・・・・明日の1限の方の宿題、やってなかった。」

ウェイグル語は4限だから、まだ少し余裕がある。
だから、1限の方が先にやっておきたいはずだ。

それにしても。
宿題忘れてたなんて、珍しい。

「じゃあ、朔弥は今からそれをやればいいね。」
「うん・・・」
「場所は、ここでも大丈夫?」
「道具はあるから、大丈夫。」
「道具?」
「写生の。とはいっても、宿題は鉛筆のデッサンだけど。」
「そっか。」

僕は辞書を出して、ウェイグル語の課題を始める。
朔弥もスケッチブックと鉛筆を取り出して、準備をしている。

朔弥はしばらく辺りを見回してから、描く物を決めたみたいで、静かに鉛筆を動かしだす。

夏休みが終わって、後期の授業が始まってから、朔弥の様子が少し変わった気がする。
最初は、気のせいかとも思ったけど…
ボーっとしているというか。何もしないで、じっと何もないところを見たままでいることが時々ある。

さっきの考え事と、原因は同じなのかな?

『どうしたの?』
『何を考えてたの?』
『何か悩み事?』

聞きたいことは、たくさんある。
でも・・・

『なんでもない。』

そう言われると、僕はもう何も言えない。
申し訳なさそうな顔でそう言った後、朔弥は必ず『ありがとう』と言う。

悩み事があったとしても、僕以外の誰かが、相談に乗っているのかもしれない。
そうなら、心配することないのかもしれないけど・・・


「僕が」頼られたいんだ


でも・・・
僕はまだ、頼りないのだと思う。

朔弥に聞いたら、きっと否定してくれるだろうけど。
自分でわかってる。
僕はまだ、自分のことで精いっぱいの子供で。
僕の方が年上なのに、朔弥に助けてもらうことの方が多いくらいだ。

だから・・・
もっと、頼りがいのある人になるから。
その時は・・・僕に、相談してほしい。
確かにそう思う僕がいる。

「シンリ?」

いつの間にか筆が止まっていた僕に気付いたのか、朔弥が首をかしげる。

「何?朔弥。」

僕は、なんでもないふりをして尋ねる。
今はまだ、悩み事を解決することはできないけど。
せめて、朔弥に余計な心配はかけたくない。

「・・・・・・絵が描けたんだけど、見てもらっていいか?」

言いにくそうにしながら、朔弥はそう言った。
へぇ、もう描けたんだ。
何を描いたんだろう。

「いいよ。」

少し照れくさそうに、朔弥が見せてくれた絵は・・・

「僕?」

テーブルでノートに向かっている僕の姿。

「わかる?よかった。」
「なんで・・・」
「悪い。嫌だったか?なら、変えるけど・・・」
「そうじゃなくて。」
「・・・課題のテーマが、《大切なもの》だったから。」
「へ?」

思いがけない返答に、僕は変な声を出してしまった。

「シンリは、大切な友達だから。だから・・・」

どうしよう・・・嬉しすぎる・・・
それから、照れてる朔弥が可愛い。

「そ、そっか。ありがとう。」

大切な友達。朔弥がそう言ってくれるなら。
今は、その「友達」として、朔弥のそばにいたいと思う。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ