記念小説

□『三周年記念』辛いときは俺に言えよな
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1ギル


今日一日の仕事が終わって、オレは塔に帰ってきた。
学生だから、あんまり日数がかかる任務がを渡されることはない。
だから、明日も午前中は授業を受けて、任務は午後からだったりする。

事務所の受付のあるロビーをつっきって、部屋に帰るために階段へ向かおうとしたら・・・
最近知り合いになったヤツがいた

光月朔弥

オレと同期で、今年からこの塔で、特別部隊の隊員として任務をしている。
隊は違うけど、前に合同任務で一緒になった時から、時々話したりしている

同期だけど、年はあっちのがしたで、
でも、位は一応オレの方が下だったりして。
ぶっちゃけ、ちょっと落ち込む時もある。

「朔弥」
「ギルか、久しぶりだね」
「おお」
「任務帰りか?お疲れ様。」

朔弥はいいヤツだ。
口調も砕けた感じになってきて、仲良くなれた気がして嬉しい。

・・・すこし、口調が男っぽい気もする。
まぁ、先輩のがよっぽどヒドイ時があるけど。

「朔弥は?」
「報告書の提出をしに。」
「そうか、お疲れ。」

報告書かぁ。正直、いまだに俺は慣れてない。
ま、まだ入隊して半年だし、毎回自分で書くわけじゃないし。仕方ないっちゃ仕方ないんだけどさ。
誤字とか、記入漏れ?とかもあるから、世話役の先輩に毎回チェックしてもらってから提出してる。
・・・朔弥は、どうなんだろう?

「なぁ、その報告書って・・・」
「自分の物だけではないよ。」
「え…?」

思ってたのと違う答えだ。
自分のだけじゃないって・・・
なるほど、朔弥は、二、三束の報告書を持っていた。

「だから、オレがこれだけためこんでたんじゃないってこと。」
「・・・なるほど。でも、誰のだ?」
「オレの一つと、後は父様と巧夜の。」
「へぇ。巧夜って?」
「双子の弟。同じ隊の先輩で、オレの世話役なんだ。」
「弟が、先輩か。・・・なんか、微妙だな。」

なるほど。
そういえば、隠密部隊の・・・光月家の双子って聞いたことあるかもしんねぇ。

「でも、なんで弟の分まで朔弥が持ってきてんの?やっぱ、後輩だからか?」

だとしたら、後輩使いの荒いやつだな。

「それもありますけど…。父様と巧夜は、昨日の夜から出かけているので。だから、同じ家のオレが、自分のものを出しにいくついでに引き受けたんです。」
「ふーん、そっか。」

いないんじゃあ仕方ない・・・か?
そういやぁ。前から、親父さんのを代わりに持ってきてたみたいだしな。

ん?
でも、親父さんと弟がいないんなら・・・

「なら、朔弥・・・今、一人なのか?」

光月家の広いんだろう屋敷に。

「……」

あれ?
・・・・・・もしかして、オレ・・・またやらかした?

「・・・ひとり・・・じゃ、ないよ。家には、使用人の人もいるし。」

オレの問いに、今度は正確に答えてくれた・・・けど。
なんか・・・さっきの朔弥は、もっと・・・何か別のことを考えていたんじゃないかと思う。
でなきゃ、あんな顔・・・

あんな、見たこともない・・・すぐにこわれそうな笑顔で、「ひとり」なんて言うはずがない。
なんだろ?すげぇ・・・やな感じ。
よくわかんねぇけど、あんな笑顔は見たくねぇ。

「あの・・さ、朔弥」
「なに?」


「辛いときはオレに言えよな」


アレスくんみたいに、頼りがいは無いかもしれねぇけど。
オレだって・・・聞いてやることくらいは、できるんだからさ。


一瞬驚いた顔をした後、朔弥は・・・

「ありがとう、ギル」

いつもの笑顔で、そう言った。






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