見えないキモチ 〜後日談短編集〜

□1 如月大和の千思万考
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「うちは、そないなあんたのことが・・・こんなに心配なんやから。」

 あのときの、飛鳥の言葉が、耳から離れない。
なんで、あんなこと・・・

 昨日は、上総の誤解を解かないといけなかったり、伊予さんからの話があったり・・・まぁ、いろいろとあって。結局、あの言葉の意味を考える時間がなかった。どんな顔をして今日、あいつに会えばいいんだろう。
こんな日でも、部活の朝連はある。俺はいつも通り、朝食と弁当を作って、家を一番に出ていく。伊予さんは、今日は授業がない日だし、上総は部活がないから、まだ寝ぼけ眼だった。・・・昨夜は、いろいろ思うところがあったのか。寝つきが悪かったみたいだから余計にだろう。斯くいう俺も、若干睡眠不足だったりする。
早朝にもかかわらず、体にまとわりつくような生ぬるい空気に、思わず眉を寄せながら、俺は昨夜考え損なったあのことに思考を巡らせた。あいつ、女なんだよな。今更ながら、そう思う。転校初日の自己紹介で、驚かされたじゃないか。

 大阪生まれの京都育ちの転校生は、初っ端からあった席替えで、偶然にも俺の隣の席になった。どの部活に入るかも決めていなかったあいつを、バスケ部に誘ったのはただなんとなく。けど、あいつも中学時代はバスケ部だったらしくて、小さな偶然が、少しうれしかった。部活前にやった3on3で、飛鳥がかなりうまい選手だってわかって、男バスのマネなんかじゃなくて、女バスの選手になりたいんじゃねえかとも思ったけど、飛鳥は見学の数日後、正式に男バスのマネになった。

 部活もクラスも一緒だったし、飛鳥とは趣味もあったから、自然と学校では一緒にいることが多くなった。ズボンをはいているけど女子だってことは本人から聞いてたし、クラスの女子とか、部活で加賀と話しているときは、普通に女子だって思える。けど、俺にとって飛鳥は、親友・・・それに、限りなく近い存在だったように思う。男女の間で友情は成り立つのか、なんて。そんなことを考えるつもりはないけど。俺と飛鳥の関係は、本当に「親友」で正しいのか。あの言葉を聞いてから、なぜだかそんな疑問が、俺の中に生まれた。


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