□嵐の前の静けさ
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「・・・・動けないのだが」
「うん」
「・・・・重いのだが」
「うん」
「・・・・痛いのだが」
「うん」

俺は軽く呆れもこめて、息を吐いた。
俺の目の前の人物は、ただいつものように微笑みを浮かべている。

「・・・・俺が言いたいことを分かっているのか?」
「うん」
「・・・・だったら」
「退かないけどね」
「・・・」

今の状況を簡単に説明すると、こうなる。
ここは、俺の部屋。
時間帯は真夜中。
俺は布団の上に寝ている。
そして、布団を被っている。
その上から、覆いかぶさっている俺の、恋人。

「一君、髪おろしてる姿も可愛いね。むしろ、僕としてはそっちの方が好みだな」
「・・・・そうか。では、俺は寝る。総司、早く退け」
「つれないなぁ」

総司は俺にまだ覆いかぶさったままだ。
いつもの微笑みを崩し、真剣な面差しでこっちをじっと見つめられると、流石に胸が高鳴る。
そんなに真剣に見つめられると、恥ずかしくなってくる。
ずしり、と総司の体重が俺の体にかかっている。
別にそこまで言わなくてはいけないほど、重くはない。
布団を挟んでだから、総司の体温なんてほとんど感じることができない。
部屋は無音だ。
余計に自分の心臓の音を大きく感じてしまう。
俺は聞く。

「総司、何をしにきたんだ?」
「ん・・・そうだね」

やけにしんみりと肌寒いこの夜と対照に、愛しそうに優しく俺の頬を撫でる手は暖かい。
総司の温もり。
心地良い温かさだ。
総司は俺を見つめたまま、静かに告げた。

「あえて言うなら、夜這いかな?」

微笑んで言う総司に、俺は頭を抱えたくなった。
総司がのしかかっているせいで、手も動かせないのだが。

「こんな肌寒い夜は、一君の肌が恋しくなるよね」
「なるか。いい加減、俺を寝せろ」
「酷いなぁ・・・僕は一君の肌が恋しいのに。まあ、良いや。一君、寝て良いよ」
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