Painless
□01-Home & Business
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第1章 Home & Business
AM 3:15
暗闇の中、街灯がチカチカと点滅する。
その度に道が明るくなったり暗くなったり、不気味な雰囲気を醸し出した。
空には少しだけ雲のかかった満月しかない。
ハァ…ハァ…ハァ…ッ
そんな不気味な夜にも関わらず、一人の男がボロボロの茶色いコートを風になびかせて走っていた。
自分以外は誰も外に出ていないその道を、時折後ろを振り返りながら走っている。
まるで誰かに追われているかのように…
『くそっ…どこか身を潜める所はないのか…』
男は住宅やビルが並ぶ道をキョロキョロと見回した。
そして、ビルとビルの間の細い道を見つけるとそこへ走って行った。
男が入ったその道は行き止まりで、街灯の光は届いていない。
ただ、月明かりが照らすだけの薄暗い場所。
男はその壁の陰に身を潜めた。
すると、男の跡を追ってきたのか警官達がやってきて、その細い道を通り過ぎて行った。
(ふぅ……)
陰に潜んでいたその男は、一安心して小さなため息をついた。
しかし、
「ありゃりゃ、もう鬼ごっこ終わり?」
後ろから幼稚な高い声が聞こえた。
『!?』
男が振り向くと、行き止まりの高い壁の上で、
しゃがんでこちらを見下ろしている少女がいた。
『くそっ!引き返さなければ…』
男はその少女から逃げるように後ずさりしながら少しずつ距離を置いていった。
そして、前を向いて一気に逃げ出そうとした、その時。
ドンッ…
何かとぶつかった。
「おっと、おじさん。危ないなぁ…」
男が見上げると、そこには黒いコートを着た青年が立っていた。
「あはっ!はさみうちw」
少女は楽しそうにその青年に言う。
男は、青年からも距離を置こうと後ろへ下がっていく。
青年もそれに合わせて男を壁の方へと追いつめて行った。
「言ったでしょ?俺らからは、逃げられないって…」
「くっ…。お前ら誰だ!」
男は必死でそれだけ言った。
「ふふ…」
少女が笑っている。
「俺ら?俺らはねぇ、Painless(ペインレス)っていうんだ」
青年は答えた。
『Painlessだと?そんな…このガキらがか…』
男は青年と少女を横目で見た。
「ねぇ、今、こんな子どもがPainlessな訳がないと思ったでしょ?」
真上から少女の声がした。
男は壁に背をつけた。
逃げ場はない。
「よく勘違いされちゃうんだなぁ…特別な任務を遂行する仕事だから、お偉い大人がやってるって」
でも、違うんだよ?っと青年は男に顔を近づけてニッコリ笑った。
男は下唇を噛みしめて、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
そして…
「くそっ!!」
男はナイフを取り出し、青年に向かってナイフを突き刺した。
キィンッ…
しかし、その音は肉と鉄がぶつかった音ではなく、
明らかに鉄と鉄がぶつかった音。
…カチャン
男のナイフは、弧を描きながら青年の後ろに落ちた。
ハァ…ハァ…
男は呼吸を取り乱し、膝を突いて座り込んだ。
青年は冷たい視線を向ける。
そこに少女が降りてきて男の両手に手錠をはめた。
「最初から脱獄なんかしなければ、こんなことにはならなかったのにね…」
青年はそう言って、男の前にしゃがみ込んだ。
少女は携帯電話を使って、誰かと連絡を取っている。
「今、警察の人呼んだから…」
少女が青年と男に告げる。
「お…俺は…、ただあいつに復讐してやろうと思っただけだ!」
男は声を震わせて叫んだ。
その言葉に呆れたのか、少女は小さなため息をついた。
「あんね、復讐したかったら頭使いなよ…。脱獄して復讐なんて無謀じゃん!」
「誰に復讐したいのか知らないけど、釈放されたら俺らに依頼しにきてよ。
そしたら、あんたの復讐の手助けをしてやってもいいぜ」
青年も男の前に座って言った。
男が黙りこくってしまった時、
ちょうど警察官たちが息を切らしてやってきた。
そして、青年と少女の前に立つと深くお辞儀をして礼を言った。
「本当にすみませんでした。私たちのミスで…あとはこちらでやります」
「本当にありがとうございました!!」
2人は、困ったように顔を見合わせると苦笑して答えた。
「「どういたしまして」」
そして、2人は明るい路地の方へ歩いて行った。