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□17-悪夢
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第17章 悪夢


『キャーーッ!!』

逃げまどう人たち

床や壁には、逃げ遅れた人たちの血がベットリとついている

私は立ちつくして

動こうと思っても動けなかった

私の横をすり抜けていく人は必死で

突っ立っている私に見向きもしない

何してるの、私。

なんでこんな所にいるの?

ここは…どこなの?



*


「はぁ…」

自然とため息が出る。

さっき見ていた景色と正反対の何もない殺風景で静かな部屋を見回す。

「やっぱり…夢か」

独り言を言って、少し汗ばんで暑くなった身体を冷やそうと窓を開けた。

涼しい風が部屋の中に入ってくる。

最近、同じ夢を何度も見る。

誰かが「サラ」って呼んでる。

それは、なんとなく聞き覚えのある声だった。

でも…

思い出せない。

今日の夕方、いつもどおりレンって人が来た。

私のご飯を持って。

私は、とりあえず無視。

でも、あんなに明るく接してくれる人は初めてだった。

だから、少し嬉しかったのかな。

この人なら私と話してくれるかもしれないって思った。

思い切って話しかけてみたけど、どうでも良いような話。

でも、あんな風に話したのはすごく久しぶりだった。

その時、レンって人が「ここから出たい?」って聞いてきた。

私は、何故か言葉につまった。

だから、あぁ、やっぱり自由になりたいんだって再確認した。


でも、キリヒト様は私を必要としてくれている。

こんな変な体質の私を…生かしてくれてる。


「出たい理由がない」


そう。やっぱり私は此処で生きていくしかないんだよ。

他に私を必要としてくれる場所はないんだから。

だから、苦しい事も乗り越えてやって来た。


全ては

キリヒト様のため。


でも、私はその後、耳を疑った。


ー『ねぇ、サラって誰か知ってる?』ー


サラ…


それは、私の夢の中で誰かが叫んでる単語で…

この人は、”サラ”って何か知ってるの?

内心びっくりしたけれど、ここは平常心を保って知らない振り。

というより、聞いた事は何度もあるけど、それが何なのかはさっぱり分からないんだから。

その後も、古野だとかセイレネスがどうとか言っていたけど、さっぱり分からず苛々してしまった。

あの人は静かに『ごめん…』とだけ言って出て行ってしまった。

でも、きっと何か知っているんだろう。

少し聞いてみたいと思った。

こんな風に人に話しかけたいと思ったもの初めてで、自分でもびっくりしてる。

でも、知りたい。

この謎が解けたら、きっとあの夢も見なくなると思うから…。


よくよく考えてみたら、この研究所に来るまでの記憶がない。

何も覚えていない。

思い出せない。

私は此処に来る前、何をしていたの?



♪〜♪〜♪〜


そんなことを考えて、ボーっと夜空を見ていると、何処からか綺麗なメロディーが聞こえてきた。

「?」

こんな夜中に…なんだろう?

気になったけど、一人で外に出る勇気はなかった。


*




「はぁ」

キリヒトの広い敷地の中にある森の中で、俺はため息をついた。

研究所から少し離れているこの森は、一人になれる場所だった。

「やっぱコイツがいないとダメだね」

俺が抱えているのは、ホームから持ってきたギター。

ストレスが溜まるとよくギターを弾いて、気分転換をする俺は、今日もまた夜中に部屋から出てきて、この森の中で一人、ギターを弾いていた。

キリヒトの部屋から一番離れているから、聞かれることはない。


♪〜♪〜♪〜


「よし!」

俺は満足して、ギターを抱えて部屋に戻った。


カチャッー


フジが寝ているので、できるだけそっと中に入った。


しかし…


「どこ行ってたん?」

そこには、不機嫌そうな顔でベッドに座っているフジがいた。

「え…なんだ、起きてたの?」

「起きてん!最近よく夜中に出て行く音するから…どこ行ってたん?」

フジは真剣な顔をして尋ねてきた。

「外。ギター弾いてた。ほら、俺、弾き語りしてたし…なんかギター弾かないと落ち着かなくって(苦笑」

弾き語りは嘘だけど、ギター弾いて落ち着きたかったってのは本当。

「ほうか。なら、ここで弾けばえぇのに」

フジは少し安心したような表情で言った。

「だって、うるさいだろ?それに外で弾くのが気持ちいいんだよ!」

「そうなん?なら、今度聞かしてな!聞きに行くから」

「ん!OK!」

「ほんなら、おやすみ☆」

「…お、おやすみ」

少し危うかったけど、フジはすぐ人を信用するんだな。

そんなことを思いながら、明日のために俺はすぐ眠りについた。



第17章 END
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