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□16-equal
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第16章 equal
研究所に来て一週間が経とうとしていた…
朝晩、ネロの所に行く度に、本当にこの子があの写真のサラなのかと、ずっと見てしまう。
そして、今日もまた…
「ネロ、ごはん!」
シュウから聞いた情報は確かだと思うけど、やっぱり本人に確かめた方が早いじゃんね。
という事で、なるべく仲良くなれるように明るく振る舞っているつもりなんだけど…
「……」
彼女は黙って、窓から外を見てるだけ。
ご飯は俺がいない間に少しだけだけど食べているみたい…だけど…
本当にコイツが、あの有名だった”サラ”…??
そうやって、彼女をジーっと見ていると
「なに?」
彼女は外を見たまま、嫌そうな声で言った。
「あ、いや。別に;;」
「たのしい?」
「え?」
「外で草刈ってたり、掃除したり…楽しい?」
「なんだ。見てたの?」
彼女はコクンと頷いて、俺を見た。
「別に…楽しいとは思わないけど」
「でも、それが仕事でしょ?」
「うん。まぁ;;」
今日はどうかしたのか…口数が多い。
「いいじゃない。人殺しが仕事なんて、全然楽しくないもの」
彼女はキリヒトに恐れているのか、ボソボソと呟いた。
悲しそうな顔で。
彼女は…彼女なりに…苦しんでる…?
喜んでいるのは、キリヒトだけ。
俺は次の仕事が入っていなかったのを思い出して、これは良いチャンスだと思った。
彼女のベッドに腰をおろして、どこを見ていいのかわからず、とりあえず天井を見つめた。
「ここから…出たい?」
「………;;」
彼女は向こうを見ていて顔は見えないけど、きっと今の俺の質問に困ってるんだと思う。
しばらく沈黙が続いて、先に口を開いたのは
「出たい理由がない」
ネロだった。
「だって、殺すの嫌なんだろ?」
「……」
きっと、此処から出たくてたまらないはずなのに…
なるべく早く、何か手がかりを掴みたいと、俺は彼女に聞いてみることにした。
「ねぇ、サラって誰か知ってる?」
彼女はこちらを向いたが、無表情。
「…知らない」
「古野さんは?」
「誰?それ…」
「セイレネスって何か分かる?」
「だから…何?意味が分からない」
彼女は質問攻めに苛立ったのか、眉根にしわを寄せた。
「…ごめん;;」
俺は一言、そう謝って静かに部屋の外へ出た。
急かしてしまった…
やっぱり…シュウの言った通り、記憶がないんだ。
ー
以前、シュウと会って詳しい話を聞いた。
ネロは、セイレネスのサラであること。
彼女は、あの事件のショックで記憶が吹っ飛んでしまったこと。
そして、セイレネスという血族はすごく珍しいらしく、ずっと失敗してきたキリヒトの生体兵器実験は、彼女によって成功したこと。
キリヒトは、サラの記憶がないことを良いことに、名前までも変えてしまったこと。
そして、今日、彼女は自分の本当の名前を覚えていないことが分かった。
”自分は、ネロだ”とずっと思ってきたんだろう。
でも、シュウは一時的な記憶障害なら、きっと何かのきっかけで思い出すかもしれないと言ってた。
だから、サラの記憶を取り戻せば、キリヒトへの信頼はきっとなくなるし、さっき彼女が言っていた”出たい理由”もすぐに出来る。
サラは見つかった。
あとは彼女の記憶を取り戻して、此処から抜け出すだけだ。
第16章 END
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