短編
□DOLLS
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日本について一番始めに行ったところは海だった。
「(何処まで続いてるんだろぉなぁ…)」
なんて…
柄にもなく思う。
独りきりの浜辺でまた、考えるのはアイツの事。
足元で騒ぐ波がやけに煩くて、
それに隠れるように
涙を流した。
溢れた涙が海に溶けた。
それがどこか重なっていて、またあの日のことを思い出す。
*****
『私じゃ…駄目なの?』
今までで一番愛せた女だ。
『もう、好きじゃないの?』
弱みを見せず、ただまっすぐに自分のやりたい事をやってるそいつが好きだった。
けど…
崩れた。
「今度の任務は長くなりそぉなんだぁ…もう、戻ってはこれねぇかもしれねぇんだぁ」
ヴァリアーの任務は絶対だ。
今回の任務で大きな事が決まるだろう。
生きて戻れるかもわからねぇ。
『二度と…会えないってこと?』
「…」
そいつには夢があった。
向かっているものがあった。
真っ直ぐなところが好きだった。俺がそれを曲げちまうのは一番やりたくねぇことだった。
『何も言わないんだ?……』
強いところしか知らなかった。
そいつは震え、涙を堪えていた。
「…わりぃなぁ…」
『なんで…?もう…好きじゃないの…?』
「ッ…そんなこと…」
そんなことねぇ。
好きだから…縛りたくはねぇんだ。
なのに…
『どこも行かないでよ…』
初めて見た、そいつの…涙。
『一人にしないでよっ…』
俺にしがみついてくるそいつを止めることも、涙を拭いてやることも…できない。
権利がないから…
見てやることすらも…できなかった。
大好きだった。
今も…
初めてこんな恋をした。
笑顔が好きだった…。
キスしようとすると…照れて笑うのが…可愛いくて…
何度、ここで抱き締めただろう。
海には思い出が多すぎた。
砂浜に書いた二人の名前が…今もまだ…残っているような気がする…
『大好きだよ…』
「…俺もだぁ…」
最後に交した哀しいキスが…
まだ…
忘れられない…
『立ち止まんないでよ?』
『私が認めた男なんだから…絶対…何でもできるよ…』
「あぁ」
『振り返っちゃダメだよ?』
涙に濡れた目で力いっぱい…笑っていた。
「あぁ」
砂浜の名前が波にさらわれて消えるのを…
暫く二人で見ていた。
溶けない恋が、
声にできなかった本当の気持ちが
俺が傷付けた傷は…
この戦いが終わってから…
必ず…
癒しにいくから…
「大好きだぜぇ…」
振り返ってばっかりだなぁ…。
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