お題小説

□『何度も彼に恋をする』
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「…… ?」


 と名前を呼ばれ顔を見る。だけど彼は寝ていてそれは寝言だと、すぐにわかった。


「…… 愛… して…… る」


 そうふいに掠れた声を聞いて、胸があたたかくなるのがわかる。
 普段はそんな事、一言も話さないし今まで聞きたい時に聞けた事がなかっただけに、素直に嬉しくなった。


「―― わかってるって」

 と話した後ため息を吐いたと思ったら、伸ばしていた右腕に力が入って私を抱き寄せる。
 本当に寝ているの? と思いながら抱き寄せられて彼の横顔を見ると


「…… 起きてた? 」


 そう言われて頷くと彼は、大きな欠伸をした後に私の方を向いて抱き締めてきた。
 寒い一月の半ばでも、シャツで寝ている彼の体温を感じて、幸せだなと思いながら両腕を首に回す。
 休日のお昼近くに何をする訳でもなく、ただこうして抱き合ってベッドの中で過ごす時間は、何にも変えられないものだった。


「夢を見てた? 」


 彼の横顔に頬をくっつけながらそう聞くと


「―― うん、あんまりにもしつこく聞かれたから」


 と言い、胸元に顔を埋めてそして


「私の事、好き? って聞かれたから愛してるって」


 と言った。だけどそれだけじゃ誰に話したのかわからなくて、苛々しながら頭を抱き締める。


「そう? 」


 いくら夢でも、もし私以外の人にそんな事を話していたとしたら。
 そう考えると何だか頭にくる。
 いくら夢でも浮気相手とか元カノとかにそんな事を告白していたら、やっぱり面白くない。
 夢でも私だけを見てほしいなんて、どれだけやきもちやきなんだろう。

「全く。愛してるのはお前しかいないよ。夢の中のお前は大胆だけど、悪くなかった」


 なんて顔を上げて話されたら、恥ずかしくて何て言ったらいいのかわからなかった。
 だけど彼には気づかれないように、夢の中の私に負けたくなくて。



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