お題小説
□短編3
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小説「捻くれ彼氏×ニーソ彼女」@
携帯電話を切った後、ベッドの近くにある小さなテーブルに携帯を乱暴に置くと私、香川知佳は枕に顔を押しつけて
「そんな言い方ってないんじゃない! 信じらんない」
と大きい声で叫んだ。枕はその声を漏らさない為で一階にいる両親に注意をされた事はないから、効果は抜群だと思う。
「付き合ってまだ1年でお互いに映画を見る事が好きだけど、見る映画は任せるって言うからチケットを買ってきたのにあんな返事するなんて」
言われた事を思い出すと苛々して枕を投げたくなるけれど、映画を観に行くのは明日だからこの気持ちを整理するのを優先させないといけないと考えてやめた。
という事は大好きなシュークリームで手を打とうと思い、タートルネックにミニスカート、それにニーソの上からコートを着て近くのコンビニに買いに行こうと、家のドアを後ろ手に閉める。
コンビニではシュークリームを2個、寝る前に本を読んでいるからそのお供……酢こんぶとガムを買って店を出た。
まだ10月だというのに店内はふんわりとあたたかく、ニーソを履いてきてよかったと思ったけれど外に出ると気休めだったという事がわかる。
この服も彼、斎藤崇史、通称たっくんに遠回りに注意をされるけれど、たっくんより8歳も若いしこういう格好が好きだから止めるつもりはない。
ニーソとかレースとかミニスカートとか可愛いのって若いうちにたくさん着ておきたいし、年齢で着られる服も決まってくるから後悔しない為にも貫き通そうと考えてる。
28歳のたっくんは人見知りをするからだて眼鏡をかけて、普段着はチェックのシャツにジーンズと無難な格好をする事が多い。
187センチもあるんだからもっとそれを生かしたお洒落をすればいいのに、服にあまり興味がないらしく普通に着られればいいと思っているみたいで残念だった。
シュークリームを2個たべて生姜いりの紅茶を飲むと気持ちは落ち着いていて、言われた事は気にしないと決めた。
20歳の私の方がもしかしたら大人かもしれないと思いながら、パジャマに着替えてベッドに入る。
するとその時、テーブルに置いてあった携帯にたっくんからメールの着信があった。
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明日、迎えに行きますよ。でも、ちーちゃんに早く会いたいからだろうと考えるのは勝手ですが。
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どこまでも素直じゃない、絶対に捻くれていると思いながら返信を打とうとすると、ある事に気づいて頬が緩んだ。
今までだったら“あなた”だったのにさっきは“ちーちゃん”になっている。
という事は距離が近付いたかもしれないと考えて、いいんじゃないだろうか。
私の事を“香川さん”と呼んでいたけれどメールで“ちーちゃん”と打ってきた事にサンバを踊りたくなるほど嬉しくなった。
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時間は9時で大丈夫ですね。これはあくまで確認をしたまでで、メールを終わらせるのが名残惜しいからではないですから。
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そう読んでも苛々しないのはたっくんの本音が隠れているからで、話す口調と変わらないのも嬉しいと思ったから。
今までこんなに捻くれている人と付き合った事がなくて手探りだったけれど、少しずつ本音がわかるようになると可愛いと考えるようになっていた。
苛々してあまり返信をしないと体の事を心配したり、眠たいんじゃないかと気を遣う文面を遠回りに送ってくるのにも。
それでもぶっきらぼうに、まるで諦めたように言われた言葉はいくら慣れていても捻くれているとわかっていても許せなかった。
「それであなたが満足するならいいんじゃないですか」
映画のチケットを買ってタイトルを言った時にこう話されたら、誰だって苛々するだろう。
例えそれが本音でなくても前後に何か考えがあったとしても、私にはその前後の気持ちはわからないし読めないのだから。
だけどその苛々がおさまると、そういう人を好きになったんだから仕方ないとも考える。
と同時にまだ知らないところがあるんだろうなと思うと、楽しくなっている自分がいた。
いや待てよ、これはもしかしたらたっくんの戦略かもしれないと思うと、掌に乗せられているのは私の方だったんじゃないかと考えたのだった。
続
20151016
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